週末の薬指
* * *
「じゃ、行ってくる。花緒も気をつけて。さっきも言ったけど、毎日俺の部屋に来てくれてもいいから。
で、結婚式の事、考えておいてくれ」
「うん。沖縄……楽しんできてね」
「楽しめるなんて期待してない。宣伝部からの無茶な要求に、今回だけ付き合うけど、もうこれからこんなことはないから。今回だって、宣伝部の同期がどうしってもって土下座しそうな勢いで頼み込んでこなきゃ断ってた」
ため息交じりの夏弥の声に、少しほっとする自分って本当嫌な女だと思うけど。
それでもやっぱり、重い気持ちで沖縄に向かおうとする夏弥を見ると安心する。
美月梓が夏弥を気に入って名指ししてくるくらいだから、今回のCM撮影で何もないとも思えない。
『行かないで』と言いたくても言えない私の気持ちがほんの少しだけ、夏弥のため息によって浮上する。
夏弥はマンションからタクシーに乗って空港へ向かうけれど、私は駅から電車に乗る。
マンションの下でお別れだ。小さなスーツケースとともにタクシーに乗った夏弥は、窓から顔を出して
「ちゃんと、花つけといたから。浮気はするなよ」
自分の首筋を撫でる。え?花?
「あっ」
夏弥の仕草につられて、自分の首筋に手を当てる。
そして、花の意味に気づいた。
何度も同じ事をされて、絶えず首筋に視線を感じながら仕事をしている日々。
夏弥に出会ってから、そんな毎日が当たり前になりつつある幸せ。
でも、やっぱり照れくさくて仕方ない。
怒ってないけど、怒ったふりもしてしまう。
「木曜にまたつけてやるから。おとなしく待ってろよ」
意地悪な瞳と、甘い声を残して、タクシーは大通りを走っていった。
その姿が小さくなって見えなくなると、ずんと重く感じる寂しさと、一緒に行けば良かったと後悔する気持ちに囚われてしまう。
しばらくその場でぼんやりと立ち尽くした後、肩で大きくため息をついて駅に向かった。
不安と不安と不安と寂しさに溢れた、長い二日間になりそうだな。
「じゃ、行ってくる。花緒も気をつけて。さっきも言ったけど、毎日俺の部屋に来てくれてもいいから。
で、結婚式の事、考えておいてくれ」
「うん。沖縄……楽しんできてね」
「楽しめるなんて期待してない。宣伝部からの無茶な要求に、今回だけ付き合うけど、もうこれからこんなことはないから。今回だって、宣伝部の同期がどうしってもって土下座しそうな勢いで頼み込んでこなきゃ断ってた」
ため息交じりの夏弥の声に、少しほっとする自分って本当嫌な女だと思うけど。
それでもやっぱり、重い気持ちで沖縄に向かおうとする夏弥を見ると安心する。
美月梓が夏弥を気に入って名指ししてくるくらいだから、今回のCM撮影で何もないとも思えない。
『行かないで』と言いたくても言えない私の気持ちがほんの少しだけ、夏弥のため息によって浮上する。
夏弥はマンションからタクシーに乗って空港へ向かうけれど、私は駅から電車に乗る。
マンションの下でお別れだ。小さなスーツケースとともにタクシーに乗った夏弥は、窓から顔を出して
「ちゃんと、花つけといたから。浮気はするなよ」
自分の首筋を撫でる。え?花?
「あっ」
夏弥の仕草につられて、自分の首筋に手を当てる。
そして、花の意味に気づいた。
何度も同じ事をされて、絶えず首筋に視線を感じながら仕事をしている日々。
夏弥に出会ってから、そんな毎日が当たり前になりつつある幸せ。
でも、やっぱり照れくさくて仕方ない。
怒ってないけど、怒ったふりもしてしまう。
「木曜にまたつけてやるから。おとなしく待ってろよ」
意地悪な瞳と、甘い声を残して、タクシーは大通りを走っていった。
その姿が小さくなって見えなくなると、ずんと重く感じる寂しさと、一緒に行けば良かったと後悔する気持ちに囚われてしまう。
しばらくその場でぼんやりと立ち尽くした後、肩で大きくため息をついて駅に向かった。
不安と不安と不安と寂しさに溢れた、長い二日間になりそうだな。