週末の薬指
私の向こう側を見ているような、遠い視線の夏弥がぽつぽつと話し始めて、私はじっと聞いていた。

少しずつわかっていく夏弥の過去が、私の気持ち痛めていくけれど、夏弥の表情の方が苦しげで、聞かなくてはいけないと、ただ次の言葉を待つだけ。

「俺、遊んでたわりに、昔から本気で好きになったらそいつしか見えなくなるんだ。花緒に惚れた後だって、ただ花緒を求めて追いかけてようやく捕まえただろ?
そんな俺を、大学時代のその彼女は面倒くさく思うようになって、逃げたんだ」

「……逃げた?」

「そう。まさしく逃げた。ちょうど彼女が異動で地方に行くことになって、気づけば部屋も引き払ってどこに異動したかもわからないまま。『ついていけない』っていう手紙を残して消えたんだ」

敢えてあっさりと言っているんだろうけど、かみしめた唇は震えていて、当時の悲しみがまだ夏弥の中に残っているのがわかる。

私の背中に回された手もぐっと熱くなった気がする。

つらそうなその顔に、ゆっくりと手を伸ばして撫でると、ぴくっと震えた。

「で、夏弥は追いかけたの?」

話を続けてくれるように促すと、夏弥は大きく息を吐いた。
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