週末の薬指
「じゃ、私はこれで失礼します。何かあれば担当の者にお聞きくださいませ」

「あ、ありがとうございました」

ここまで案内してくれた女性が私達の側を離れて、ふっと息をついた。

そして、それまで固い雰囲気の中一緒にいたおばあちゃんを見ると、タクシーの中で味わっていたぎこちなさそのままでたたずんでいた。

視線をあちらこちらに泳がせる様子は落ち着かなくて、誰かを探しているようにも見えた。

「おばあちゃん?」

「あ、……なんだい?」

「なんだいじゃないよ。落ち着かないようだけど、誰か探してるの?えっと、夏弥なら遅れて来るって言ってたからまだいないよ」

「そうじゃないよ。ちゃんと落ち着いてるから大丈夫」

「そお?」

全然大丈夫には見えないんだけど。

心細さが滲む表情を隠して、背を伸ばし、しゃんとしているようなおばあちゃん。

何故かそわそわしているけれど、どうしてなのか全く見当がつかない。

この高級感あふれるホテルの荘厳な雰囲気に気圧されてるのかと思わなくもないけれどそうでもなさそうで。

しきりに視線を泳がせながら警戒しているように見える。

……何に?
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