週末の薬指
「夏弥……」

約束通りこの場に来てくれた。

今朝別れたばかりだというのに、一日会えなかった時間が急に寂しく思える。

思わず夏弥のもとに向かおうと足を進めた時、ぐっと腕を掴まれた。

驚いて振り返ると、苦笑した渋沢さんが首を横に振っていて。

「ばかか。今から社長から記念品が配られるんだからここにいろ。あの様子ならまだ大丈夫だ。俺がこんな事しなけりゃな」

「こんな事?」

「そ。こんな事」

にやりと笑った渋沢さんは、私の肩を軽く抱き寄せて耳元に囁いた。

「今夜、お仕置きされるかもな」

「なっ」

「くくっ」

「し、渋沢さんっ」

私の慌てた声に、ようやく腕を離してくれた渋沢さんから離れて、夏弥を見ると。

今まで見たこともないほどに眉を寄せてる鬼……のような夏弥。

「うわっ……どうしよう」

側に行きたくても行けない。

今から社長にお祝いの言葉と記念品……。

声を出さずに口だけで『なんでもないから』って必死で呟くと、そんな私に一瞬驚いたような夏弥は、同じく口ぱくで『ばーか』と言ったような気がした。

その瞬間、ほっとして大きく息を吐いた。
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