週末の薬指
しがみついて涙を流して。

好きだと何度も言いながら、夏弥の胸の鼓動を聞いていたのはどれほどの時間だったんだろう。

私の背中に回された手が優しく這う感覚に酔いながら、ずっとこのままでいられたらと願った。

婚姻届にサインを済ませた後、夏弥はそのまますぐに役所に届けに行こうとしたけれど、それはあまりにも急すぎる。

私のおばあちゃんの了解と、夏弥のご両親の了解を得ているとはいっても、私は夏弥のご両親に会った事がない。

せめて入籍前に挨拶は済ませておきたい。

夏弥を育ててくれた人たちだから、決して悪い人ではないと思うし、家族の話をする時の穏やかな夏弥の表情を見れば、その関係は温かいものだとわかる。

だから尚更会いたいと思うし、私の事を夏弥の嫁だと認めてもらってから入籍したいと思う。

夏弥にそんな私の気持ちを伝えると、渋々ながら頷いて。

『両親は昨日から、結婚して35年のお祝いで北海道に行ってる』

残念そうに呟いた。そして

『なんなら、これから北海道に顔見せに行くか?』

と真面目なんだか冗談なんだかわからない顔を見せた。

そんなに早く入籍したいものなのかと笑ってしまうけれど、どこか心がじんわりと温かくなる。

とはいえ、その提案は丁重に断って、日曜日は二人でのんびりと過ごした。
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