週末の薬指
「ぼろぼろに壊れていた花緒につかまって、ぼろぼろにされたのは俺だ。
花緒に気持ちを持っていかれて、それでも花緒が回復するまで何もできなくて狂いそうになっていたのは俺だ」

「でも、私……何も知らなかったし……突然そんなことを……」

「そうだな、突然だよな。こうして二人でお互いの体温を分け合うようになって間がないし。
花緒にしてみれば、俺の事で知ってる事より知らない事の方が多いしな。
でも、俺はずっと花緒が欲しくてたまらなかったんだ。
もう限界だ」

その言葉が終わらないうちに、ぐっと抱きしめられて、首筋に痛みが走る。

きっと真っ赤な花が一つ咲いた。

「限界なんて、どれだけでも背負うけど、この先何かあった時に正々堂々と花緒の側に寄り添える権利が欲しい。たとえ美月梓に何かを仕掛けられても、夫として何もかもを背負える資格が欲しい。
守りたいんだ、花緒の事を」

「夏弥……」

「それだけじゃない。花緒の近くにいられるようになって、欲も出てきたんだ。
もう、俺の側から離したくない。美月梓の事だけじゃなくて、俺も花緒の側にいたいんだ。だから、結婚しよう」

涙が流れる。夏弥の言葉と体温と、想いすべてが私の中に注がれて、溢れだす涙。

「私……父親、いないよ?誰かも知らないよ?それでもいいの?」

まるでつぶやくように、涙声で夏弥に聞いた。一番気になっている事だから。
悠介にはそのことで捨てられたから。

「花緒のお父さんには感謝してる。……花緒を俺に与えてくれた人だから、感謝こそすれそれ以外の感情は何もない」

「な、なつやぁ……」

思わず大きくなった声で夏弥にしがみついた。

ぐすぐすと泣きながら、夏弥の首筋に涙を落とした。

「あーあ。泣いてばっかだな。……俺以外にはその顔も声も見せたり聞かせるなよ。本当に愛してるよ。ここ何日か、どれだけ俺が幸せだったかわからないだろう。ようやく花緒を手に入れたんだ。もう手放さない」

「うん……。私も、愛してる……」

「そっか。じゃ、サイン、ちゃんとしてくれ。あ、涙や鼻水はつけないように」

くすくす笑いながら私を抱きしめてくれる夏弥の腕に抱きしめられて、やっぱり涙は止まらなかった。
< 91 / 226 >

この作品をシェア

pagetop