週末の薬指
その日の午前中、予定にはなかった会議が行われることになり私にも出席するように上司から言われた。
新薬開発の研究が私の大きな仕事。
そう言うととても聞こえのいい格好いい仕事のように思われるけれど、実際は日々淡々とデータをとったり実験をしたり。
新薬開発なんて途方もない年月を重ねてようやく結果を出せるものだから、イメージ以上に地道な作業だ。
今日突然入った会議は、開発に私が少し絡んでいた薬品についてのもの。
その事を聞いて、なんだかどっと疲れが出てきた。
疲れとともにため息も何度か。
それでも仕事だからと、自分を前向きな気持ちに叱咤しながら会議室へと向かった。
数か月前に完結させたその仕事は、悠介も開発に関わっていて、何かと顔を合わせることが多かった。
既に別れてから数年も経っていたせいか、お互いに昔の事を蒸し返して仕事に影響を出す事はなかったけれど、それでも私の気持ちが平静だったわけじゃない。
大がかりなプロジェクトだったおかげで二人きりの時間は皆無に近かったけれど、同じ部屋で同じ仕事をしながらの私の精神状態はかなり悪かった。
悠介と別れた後、心を壊してしまった私は入院を余儀なくされ、その事を公にしない努力をしていたものの、社内では皆が知ることとなっていた。