海宝堂〜海の皇女〜
立ち上がれず、うつむいたままでどれくらいの時間が過ぎたのだろう?
何度、頭の中で絶望と希望を行き来しただろう?

負けちゃいけないと思う自分と、もう諦めてしまおうとする自分がうるさいほど叫んでいる。

すっかり冷えた震える肩に、ふと何かが触れた。

―誰…?―

―お可哀想に…以前の覇気はどこへやら…―

この暗闇の中、久し振りに聞く声は懐かしく嬉しいモノに聞こえた。
ぼやけた頭で声の主を探る。

―助けに来て差し上げました。さあ、私と共に参りましょう…―

暗闇で、何故か差し出されたと分かる手に、顔がほころび、自分の手を重ね――

ドクンっ!

突然、胸に痛みが走る。
その痛みでぼやけた頭が、機能を取り戻していく。

シーファは目の前の手を弾いた。

―助ける?
くだらない芝居に付き合ってる暇はないの。
ここから出して。―

冷たい視線をヌルドに向け、シーファは立ち上がった。

ヌルドの姿が見える。
さっきまで自分の手すら見えなかったのに、光がヌルドの不気味な笑いを照らしている。

光っているのは…シーファの胸…紋章が光を放ち、闇を照らしていた。

―紋章…ですか。
王家の力があなたを護っている。―

優しい光、シーファはヌルドを睨み付ける。

―しかし、芝居とは心外ですね。
私はあなたを本当に助けて差し上げたいと思っているのに…―

―何をっ…こんな所に閉じ込めた張本人がっ―

―いいえ、私はあなたにそんなことはしませんよ。
ここには、ご自分で入り込んだのですよ。
シルフェリア皇女。―

ヌルドはゆっくり丁寧に頭を下げた。

―私はシーファ。シルフェリアでもなければ、皇女でもないわっ!―

―…では、その紋章はどう説明を?
紋章が王家の者以外に、ましてや、人間に表れるはずはありませんよ―

―私の生きる場所は、海の中でも、城の中でもないっ、海の上で仲間達と旅をする。そう決めたの―

―仲間?
はて…?それは、すでに地上に戻った彼らのことですかな?―

ヌルドが不思議そうに問いかける。
そして、ぼんやり光る水晶の玉を取り出した。
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