海宝堂〜海の皇女〜
目の前に近づく水晶の玉を覗き込む。
玉に映る自分の顔が次第に崩れ、ゆらゆらと別のものになっていく…

―彼らなら、あなたの帰りを待つことなく、旅を続けている。ほら…―

よく晴れた海の上。
マシュー号が風を受けて進んでいく。
甲板に3人の影。
リュート、ニーナ、そしてガル。
いつものように、楽しそうに、笑い合いながら、食事をしている。

―嘘よっ!こんなの、作り事だわっ!
みんなが…私を置いていくわけ…ないものっ…―

―そうでしょう。彼らも最初はそのつもりだった。
しかし、一ヶ月以上も戻らない上に、探そうにもビュウやアーターには敵わない。
彼らはあなたの代わりを持って、海の底から逃げ出したのです―

―私の…代わり…?―

ヌルドは玉の中のニーナを指差した。
ニーナの胸には紋章を型どった首飾りが掛かっていた。トイスで手に入れたものより、繊細で他にはない煌めきを放っている。

―この紋章をあなたの代わりと言って、上手く王達からかすめとり、何もなかったかのように旅を再開したのですよ―

―嘘っ!うそっ…そんなのうそよっ!―

シーファは頭を抱えて座り込んだ。
ヌルドは玉をしまうと、シーファの隣に座り、優しく肩に手を回した。

―可哀想に…信じていたモノに裏切られ、捨てられ、それでもまだ信じようとする優しい心の皇女よ…
私が助けて差し上げると言ったのは、こんな酷い奴らに囚われてしまったあなたの心を救って差し上げたいと言うことなのです―

―彼らは酷くなんか、ない…―

―そう信じたい気持ちも分かります。
しかし、彼らは所詮人間。私達、海の皇国の者とは違うのです。
私達は海のように深く、誰にでも愛を与えることができますが、彼ら人間は自分達にメリットのあるモノにしか愛を示さない。
だから、あの首飾りをあなたの代わりに出来るのです。
あなたの代わりなんてどこにもいないのに―

ヌルドはシーファの頭を抱き、髪を撫でた。
シーファは流れ込んでくる声に全てを預けだしていた。
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