海宝堂〜海の皇女〜
必死で自分の足の下に手を伸ばすリュートの姿を、シルフェリアは冷たい目で見下ろした。

「あんなものの為に…
バカな奴っ!」

足に体重をかけ、強く踏みつける。

ミシっ…

リュートの手が小さく悲鳴をあげた。

リュートは唇を噛んで、シルフェリアを見上げる。

「…あ、あんなものじゃねぇっ!
大事なもん…なんだ…
これは…これは…
シーファ、お前の…」

シルフェリアは足を離すと、リュートの腹を蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされても、リュートの手にはさっきの布切れが大切に握り込まれている。

「なんだ!なぜ、そんなものをそんなに大事にする!?
ただの…ただの布切れなのにっ!」


「ただの布切れなんかじゃねぇっ!
お前、そんなことまで忘れたのかよっ!?

これは、元はお前のだろっ!」

「……?
私…の…?
そんなものは知らないっ!」


「いや、知ってるはずだ。
シーファ…
その布切れは…あの時、お前がボロボロにしてまで、俺達の所に来てくれたあの時の、ドレスの切れ端なんだ。」

ガルが立ち上がり、自分のポケットから同じような布切れを出して見せた。


「あんなに綺麗なドレス、あんなにボロボロにしちゃって…
靴も履かないで、息を切らせて…

もったいないって言ったのに、ホントに捨てるんだもの。」

ニーナもホルスターの下から同じ布切れを差し出す。

「ドレス…?あの時…?」

シルフェリアの顔に初めて動揺が現れた。
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