海宝堂〜海の皇女〜
日はすっかり真上に昇り、眩しく海面を照らし始めた。
マシュー号の甲板で笑い声が響く。
と、ガンっ!と嫌な音がして、急に船がその動きを止めた。

「おおぉ?なんだぁ?」
「ちょっと!嘘でしょ!? 」
「こんなとこに浅瀬か?」

ニーナとガルが慌てて船から身を乗り出す。
ゆらゆらと穏やかな海面にあるはずもない障害物が見えた。
ニーナは船室に戻ると海図を見て眉をしかめた。

「おかしいわ!こんなとこに浅瀬なんか無い!」

切迫した声が聞こえてきてニーナが船室から飛び出して来た。
シーファはただみんなの行動を目で追うしか出来なかった。
もう一度ニーナが海面を覗こうとした時、船がぐらりと揺れて、船首が上がり傾き始めた。

「え?え?き…きゃああっ」

ゆっくりと傾斜が出来ていく甲板にシーファは一歩、また一歩と滑っていきそうになる。
前の3人はしっかりと船首に掴まってその身を安定させている。

「シーファ!
なんなのよこれ!船がひっくり返っちゃう!」

シーファはなんとか船の手すりに掴まってほっと息をついた。

「あ…あ…」

海の方を見ていたリュートが言葉にならない言葉で海面を指差していた。

マシュー号の先端を引っ掛けて、急に浮上してきたのは亀だった。
もちろん、普通の亀ではない。
マシュー号とほぼ同じぐらいの大亀だ。
体の大きさもさることながら、マシュー号を持ち上げてしまうパワーもあった。

「信じられないデカさだ…」

「こんな島の近くに巨大生物がいるなんてあり得ないわよ!」

「しかし、出てきたもんはしょうがない。」

ガルは躊躇なく手すりを乗り越えると、大亀の甲羅の上に降り立った。

「ガル、どうすんの?」

「頭に刺激を与えりゃ、ビックリして沈むだろっ。」

甲羅の上で四つん這いになって頭の方に移動していく。

「…ホントに大きい…
ガル、気をつけて!」

シーファがそう言った直後に大亀が頭を動かし、体が揺れた。

「!しまっ…」

ガルはバランスを崩し、海に落ちそうな所を甲羅の出っ張りにかろうじて掴まる。

「ガルっ!」

それを見てシーファが身を乗り出したと同時に、大亀が首を動かし、その拍子にシーファは海に落ちてしまった。
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