海宝堂〜海の皇女〜
「な…にぃ?こんなガキがまさか…」

シドが動揺すると繰風から伸びていた風がふっと消えた。

「わっ!」

突然、拘束が解けたシーファはシドの隣に降り立った。そこからはなんとも言えない早業だった。

降り立ったその足で、シドの腕から繰風を蹴り上げ、顔面と腹に一発ずつ拳をぶちこむと、シドは派手に甲板に倒れた。

「くそっ…」

飛び上がった繰風が落ちてくるのを掴んで、シドの喉元に突きつけた。

「よっしゃあ!」

「殺すか?出来るなら大したもんだ。」

この状態でまだ偉そうな口をきくのが、雑魚ではないことを証明していた。

「殺さないわ。なんの得にもならないし、あんたには聞きたいことがある。」

「…なんだ?」

「…真実を。」

シーファの言葉に笑いをこぼして、シドは身を起こして座った。

「…まあ、いいだろう。
知りたいのは依頼主だな。」

シーファはゆっくりうなずいた。

「リタ王妃に間違いねえ、王妃様直々の依頼だ。変装して俺に会いに来たんだ。」

「そう…お母様…」

「…しかし、リュート王子は無関係だ。息子を王にしたいが為のバカな策略さ。王子はあんたに死んで欲しいどころか、戻って来て欲しがってるそうだ。
リタ王妃はあんたを憎んでたよ、あんたの存在が未だに大きすぎてな。」

シーファは複雑だった。リュートがこの計画に関わっていないのは嬉しいが、こんな計画を立てさせてしまった原因は自分にあった…。
そんな表情を読み取りながらシドは続ける。

「王も王子もあんたを諦めきれず、このまま王位の継承が行われなければ……王妃は次の暗殺を依頼するかもな…」

「!」

「…一国の王の暗殺は骨が折れそうだっ!」

言葉じりに今度はシドが繰風を蹴り上げる、一瞬引いたシーファの首に手がかかろうとする直前、その腕は炎に包まれた。
いや、腕だけでなく、シドの体全体が燃えていた。

「う…うぎゃあああぁっ!!!」

恐怖に怯えた叫び声をあげながら暴れるシドを残してシーファはガル達の船に戻ると風が二艘の船を引き離した。

シドは火が燃え移った船とその運命を共にし、沈んでいった。
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