海宝堂〜海の皇女〜
(誰?ニーナ?)

いや、ニーナは規則正しい寝息を立てている。
気のせいかと体勢を戻そうとすると、


「――――くるよ――」


(また!確かに聞こえた…どこ?)

夜中に海の上で聞こえる声…ホラーの王道みたいな話だけど、シーファは恐怖を感じなかった。
それよりもちゃんと言葉を聞きたい、そんな気持ちが強かった。

ブランケットを肩に掛けて床に足を下ろす。ギッと音がなり、慌ててニーナの方を向くが、そんなことぐらいで起きそうにもない。
そのまま、ドアを開けるとキッチンが目に入る。ガルがまだいるのかとも思ったが、ガランとしていた。


「―――まんげつが―くるよ―――」


さっきよりもはっきりと声はシーファの耳に届いた。

(満月?リュートやガルの口調じゃない…もっと小さな子の…)

甲板に出ると海風がさっと頬を撫でていった。夜の海はひんやりとシーファを包み込んだ。
かぶったブランケットを強く握ると船首に向かって進む。


「――もうすぐ、まんげつだよ―――」


「…誰かいるの?
満月がどうしたの?ねぇ…」

船首に手を置き、身を乗り出してみんなを起こさないように声をひそめて声の主に呼び掛けるが、返事は無かった。海面を見回すが当然、船影は無い。

(満月…何があるんだろう?)

月は夜空に浮かんで優しく光を放っていた。

シーファはそのままそこに腰を降ろすと頭を船に預け、途端に眠気に襲われた。


「シーファ?シーファ!?」

次の朝、ニーナの声が船に響いた。

「…なんだよ、朝っぱらから…」

リュートが男部屋からひょっこり顔を出す。夢の中だったのを起こされ、かなり不機嫌な顔だ。

「ねえ、昨日シーファってこっちの部屋で寝たんでしょ?」

「あ?そうだ。ソファー運んでよ…」

リュートは大きなアクビをしながらはしごを登った。

「いないのよ、甲板も見たけど…まさか!ガルは?」

「あ?見張り…おお〜マジかぁ〜?」

「バカ!何、にやけてんの!暗殺者が忍び込んで来たりしてたら…」

リュートの頭を小突いて、ニーナは船室を飛び出すと見張り台のガルを呼んだ。

「ガル!ガル!」
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