海宝堂〜海の皇女〜
部屋を飛び出したシーファは中庭まで走り、やっとその足を止めた。

(やっぱり…戻ってくるべきじゃなかった…)

後悔がのしかかって、もう一歩も動けない気がした。

「姉上?どうしたんです?
父上の部屋にいったのでは?」

振り返るとカイルがそこに立っていた。
カイルは城を出た3年前より確実に大人へと成長していた。
背も高く、首も太くなり、女の子のように肩まであった栗色の髪は短く切られていた。

「カイル…母上は?」

「部屋でお休みになりました。
最近、ずっと元気がなかったのです…寝付きも悪いようでしたし…」

心配そうに見上げる視線の先にはリタの部屋の窓があった。

「そう…心配ね…」

「はい、私があまりにも頼りないので母上にいらぬ心労をおかけしてしまったばかりに…」

「頼りないだなんて…」

うなだれるカイルの肩に手を掛け、なだめる。
カイルはそのシーファの手を取って顔をあげた。

「でも、それももう終わりです!
姉上が帰ってきてくださったのなら、母上もご安心なさるでしょう。」

屈託のないその笑顔はシーファの胸にチクリと痛みを残した。

「カイル。
私がいなくても、あなたが次の王位継承者なのよ?」

「はい…しかし…
私は姉上のようにはなれません。
強くもないし、国民達とのコミュニケーションも少ない。そんな私に父上が王位を任せるはずもありません。
姉上がいない間、公務の代理を勤めましたが…」

カイルは悲しげに首を振った。

「姉上は凄いです。私などでは代理は勤まるはずもありません。」

「そんなことはないわ!あなたはとても優しいし、この国を愛しているでしょう?
あなたが世話したこの庭のようにきっとこの国をより美しくできるわ。」

カイルの肩を掴む手に力がこもる。
その迫力にカイルは目を丸くする。

「姉上…?
父上は必ず戻るとおっしゃってましたが、まさか…!」

今度はシーファが目を伏せた。
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