海宝堂〜海の皇女〜
ジムが倒れた事で、兵士達はぴたりと動きが止まった。
その隙にシーファは兵士達の間を通り抜け、ドアまでたどり着いた。

振り返り、剣を捨てると、マーリンを見た。

「シルフェリア…行くな…」

「父上っ!シルフェリアは嫁に行ったのだとお思いください!
今までのご恩は決して忘れません!さようなら!

カイル!この国を頼んだわよっ!」

カイルは高く拳を挙げた。
シーファはそれを見ると、踵を返し、振り向きもせず走り去った。


マーリンは崩れ落ち、その顔を手で覆った。

「父上…私がおります。
あなたの息子を信じてください。」

カイルが背中を優しく撫でる。

「カイルよ…
お前にも辛い思いをさせたのだな…

確かにお前が正統な王位継承者じゃ。」

マーリンは立ち上がり、カイルの両肩を掴む。

「しかし、まだ若い。
これからは、王としての心得を叩き込んでやる。
そして、立派な王となってみよ!」

「はいっ!」

数年後…立派に成長を遂げたカイルは、歴代最年少で王位を継ぎ、トイス王国を繁栄へと導くことになるのだった。


―――――――――――――――


シーファは走った。
片方だけになっていた靴を脱ぎ捨て、切った場所からドレスを割いて、とにかく走った。

背中を押された城へと続く道を戻り、戴冠で賑わう街に入った。
シーファの姿にみんな目を丸くする。

「シルフェリア様…一体何が…」

「はぁっ…はあっ…
説明してる暇はないのっ…通してっ!」

人をかき分け、船のある港にようやく抜けた。
マシュー号はまだそこにあった。
リュート達が仕入れた物を運び込んでいる。

「シルフェリア様…」

手伝っていたポムが動きを止める。
シーファはゆっくりとマシュー号に近づいた。
船の上で3人は、いるはずもないシーファの姿に目を丸くした。

「シーファ!」

「ちょ…なによ、その格好…」

驚くリュートとニーナ。そして、奥から見ているガル。
シーファは肩で息をしながら、身を震わせた。
ポタポタと涙が溢れて落ち、弾けた。
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