魔王と妃
エミを人間として地上に送ってすぐに城中に爆発音と振動が響いた


「存外早かったな。ゼブルよ」

「返せ。」

城の門を破壊し不機嫌そうに前髪をかきあげた悪魔
その瞳はまるで血のように紅く、憎々しげに己を見つめた


「追手はくるものだと思っていたが‥まさかお主が直接来るとは思わなかったな」


「いいから、返せ。あれは俺のものだ」


力を抑えていないのだろう、ゼブルの周りには風が舞い上がりその殺気だけで大魔王の頬に傷を作る


「ここは深淵ではないんだ。少し力を抑えてくれないか?」


他の者たちが怯えてしまっているではないか。
そう言い、周りに目をやるとすっかり怯えきった家臣たちが見える


「それに、エミはもうここには居ないよ。」


大魔王が放った言葉にさらに殺気が増長する。


案外力を抑えていたらしい‥怖いものだ。


「いましがた彼女を人間といて地上に送った。これでおぬしも簡単には見つけることができまい」


さて、どうする?ゼブルよ。我を殺すか?
そうすれば彼女は絶対に戻ってこないがな。
術者の我が死んでは一生彼女の術は解けない


「気長に待てば術が解けるだろうよ」


「勝手な真似を…」

「元はといえばお主が悪いのだろう?大切なら傍から離さなければよかったものを。それに我は手助けをしたに過ぎない。彼女は自ら望んでお主の傍を離れようとしていたのだよ」

我はゲートのところで会っただけで部屋にまではいっておらんよ。

あくまでも手助けのみ。そう言い張る大魔王に苛立ちが増す。
しかし今はここで争っている場合ではないことは理解している。行き場のない苛立ちが逆にゼブルの頭を冷静にさせる。


「どうせ成人すれば力を抑えられなくなるだろう。人間の年齢でいえば20歳前後かの…まぁ彼女ほどの魔術師であればそれを遅らせる手段もとるのだろうが…なにぶん記憶を消してから人間にしたからな。案外早く見つかるかも知れないぞ?」

「記憶を消した?」

「かわいそうであろう?あんなに身も心も傷ついた状態では…」


「もう一度彼女を連れ戻すのなら次は逃げ出そうとすることなどないくらい大切にしてやるのだな。」





大魔王の城を出てからゼブルは考えた。
人間として記憶を失った状態のエミならば己を見てもまず逃げることはない
必ず見つけ出し、この腕の中にまた捕らえるまでのこと


さて、鬼ごっこの始まりだ
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