エスメラルダ
脇の下に嫌な汗をかいた気配を覚えながらエスメラルダは言った。
アユリカナ様の仰るようにマーデュリシィ様は仰った!
エスメラルダには不思議に思えたが、アユリカナに教えられた台詞を告げるだけで良かった事にほっとした。
だが、怖い。握り締めている手のひらも汗ばんできている。
マーデュリシィはそっと台座の上にあった水晶をエスメラルダの腹の上に置いた。
それは不思議と温かかった。
「そなたの言葉に真実が反すればその水晶は砂の如くに砕けるであろう。言い直しがきくのは今だけぞ。エスメラルダ、汝の言葉に偽りはないか」
マーデュリシィの言葉にエスメラルダははっきりと言い切った。
「ありません、大司祭様」
マーデュリシィが微かに微笑んだ気が、エスメラルダにはした。
「天の玉座を二分するもの、常にこの世界を見守り給ひし二つの魂、太陽と月よ、その光をこの水晶へ投げかけられん事を。そして尊き魂よ、見守り給ひしこの娘の過去を映し出し給へ。偽りあらざれば、地の番人よ、この娘は死後汝の物にならん。印をつけるが良い。真実であれば、天の番人よ、この娘は死後汝の腕の中にあり。祝福を」
どくん! どくん!!
エスメラルダの心臓は激しく打った。
身の潔白を知っているのは間違いなく自分である。
だが、地の番人の名前を聞くと怖かった。
それは恐ろしき悪鬼であるという。
そして、水晶が光り始めた。
残酷に、光はエスメラルダの生まれてから今までの情報を人々の脳裏に擦りこんで行く。
眩しさに、エスメラルダは目を閉じた。
すると、浮かんだのは父ジブラシィと母、リンカの姿であった。
母は眠っており、エスメラルダは揺籃の中にいた。
そしてジブラシィは小さく呟く。
「男であればよかったのに。女というものは金食い虫だからな」
エスメラルダの胸に痛みが走った。
いつも少しばかり乱暴でも優しかった父が、そのような態度を取るのは信じられなかった。
だが、これは真実。
くるり、世界が暗転する。
次は医者に詰め寄るジブラシィをリンカが必死になって止めていた。
「リンカがもう子供を産めないだと!? 一体どんな赤子の取り上げ方をしたんだ!?」
「止めて下さい、貴方!」
「おそれながらリンカ様の……その、産道は大変狭くていらっしゃいます。産めぬのではなく次はお命の保証がないのです!!」
「ふざけるな! ではローグ家は誰が継ぐ!? リンカが産まねば誰が男の子を産むというんだ!? 俺はリンカ以外妻を娶る気はない!!」
ジブラシィは医師の白衣の喉元を握り締め激昂した。
リンカが泣きじゃくりながら夫の袖を引く。
「産みますから!! わたくしがもう一人でも二人でも産みますから!! 御医者様に乱暴なさらないで下さいまし、ジブラシィ様! 赤ちゃんが見ております!!」
「赤子の脳で記憶に残るものか!」
赤子のエスメラルダは泣きもしなかった。
だから今、瞼の裏に広がる光景がはっきりみえるのだろう。
十六のエスメラルダは泣きたくなった。
父が男の子を欲しがっている事は知っているつもりだった。
エスメラルダが十一の頃、身籠った母に盛んに男の子を産めと言っていたのをエスメラルダは忘れられなかった。
わたくしは、要らない子?
くるり、再びの暗転。
「エスメラルダ」
ジブラシィが呼んだ。
「今日も綺麗だな。女の子は良い。飾り甲斐があって目の保養にもなる」
振り返ったのは十歳くらいのエスメラルダだった。
「今日はとても良いニュースがある。お母様のお腹にお前の妹か弟がいるんだよ」
エスメラルダは嬉しくなかった。
リンカはただでさえ、ベッドで過ごすことが多い。だからエスメラルダが母に構ってもらえる時間は限られていたのに赤ちゃんが来たら……生まれたらリンカをとられてしまう。
アユリカナ様の仰るようにマーデュリシィ様は仰った!
エスメラルダには不思議に思えたが、アユリカナに教えられた台詞を告げるだけで良かった事にほっとした。
だが、怖い。握り締めている手のひらも汗ばんできている。
マーデュリシィはそっと台座の上にあった水晶をエスメラルダの腹の上に置いた。
それは不思議と温かかった。
「そなたの言葉に真実が反すればその水晶は砂の如くに砕けるであろう。言い直しがきくのは今だけぞ。エスメラルダ、汝の言葉に偽りはないか」
マーデュリシィの言葉にエスメラルダははっきりと言い切った。
「ありません、大司祭様」
マーデュリシィが微かに微笑んだ気が、エスメラルダにはした。
「天の玉座を二分するもの、常にこの世界を見守り給ひし二つの魂、太陽と月よ、その光をこの水晶へ投げかけられん事を。そして尊き魂よ、見守り給ひしこの娘の過去を映し出し給へ。偽りあらざれば、地の番人よ、この娘は死後汝の物にならん。印をつけるが良い。真実であれば、天の番人よ、この娘は死後汝の腕の中にあり。祝福を」
どくん! どくん!!
エスメラルダの心臓は激しく打った。
身の潔白を知っているのは間違いなく自分である。
だが、地の番人の名前を聞くと怖かった。
それは恐ろしき悪鬼であるという。
そして、水晶が光り始めた。
残酷に、光はエスメラルダの生まれてから今までの情報を人々の脳裏に擦りこんで行く。
眩しさに、エスメラルダは目を閉じた。
すると、浮かんだのは父ジブラシィと母、リンカの姿であった。
母は眠っており、エスメラルダは揺籃の中にいた。
そしてジブラシィは小さく呟く。
「男であればよかったのに。女というものは金食い虫だからな」
エスメラルダの胸に痛みが走った。
いつも少しばかり乱暴でも優しかった父が、そのような態度を取るのは信じられなかった。
だが、これは真実。
くるり、世界が暗転する。
次は医者に詰め寄るジブラシィをリンカが必死になって止めていた。
「リンカがもう子供を産めないだと!? 一体どんな赤子の取り上げ方をしたんだ!?」
「止めて下さい、貴方!」
「おそれながらリンカ様の……その、産道は大変狭くていらっしゃいます。産めぬのではなく次はお命の保証がないのです!!」
「ふざけるな! ではローグ家は誰が継ぐ!? リンカが産まねば誰が男の子を産むというんだ!? 俺はリンカ以外妻を娶る気はない!!」
ジブラシィは医師の白衣の喉元を握り締め激昂した。
リンカが泣きじゃくりながら夫の袖を引く。
「産みますから!! わたくしがもう一人でも二人でも産みますから!! 御医者様に乱暴なさらないで下さいまし、ジブラシィ様! 赤ちゃんが見ております!!」
「赤子の脳で記憶に残るものか!」
赤子のエスメラルダは泣きもしなかった。
だから今、瞼の裏に広がる光景がはっきりみえるのだろう。
十六のエスメラルダは泣きたくなった。
父が男の子を欲しがっている事は知っているつもりだった。
エスメラルダが十一の頃、身籠った母に盛んに男の子を産めと言っていたのをエスメラルダは忘れられなかった。
わたくしは、要らない子?
くるり、再びの暗転。
「エスメラルダ」
ジブラシィが呼んだ。
「今日も綺麗だな。女の子は良い。飾り甲斐があって目の保養にもなる」
振り返ったのは十歳くらいのエスメラルダだった。
「今日はとても良いニュースがある。お母様のお腹にお前の妹か弟がいるんだよ」
エスメラルダは嬉しくなかった。
リンカはただでさえ、ベッドで過ごすことが多い。だからエスメラルダが母に構ってもらえる時間は限られていたのに赤ちゃんが来たら……生まれたらリンカをとられてしまう。