エスメラルダ
その夜、レイリエは天井を眺めながらじっとベッドに横たわっていた。
この塔は高貴な身分の者が囚われる塔。
ベッドも豪奢で布団もちゃんと干した布団だった。黴臭さなど何処にもない。
「もっと恐ろしいところかと思っていたわ」
レイリエは自嘲するように笑う。
自分を次に待ち受けているものは何なのだろう? 生涯の幽閉か?
だけれども、看守が男なら誑かせる。
女なら、同情を買おう。
わたくしは国王の叔母。
その時、ノックの音が響いた。
「叔母上、起きていらっしゃいますか?」
その声はブランシールのものだった。
レイリエは驚く。
ブランンシールが、こんな時間に何用だろう?
「女性を訪問する時の礼儀位、守って下さらない? それとも、賊まがいの真似をして連れて来た女に、そんな気遣いは無用だとでも? 今が何時かご存知?」
「解っていますよ。だからいきなり扉を開けずにノックしたのです。女性に対する気遣いや配慮が欠けている事は認めます。どうかお許し頂けませんか?」
下手に出てこられると、レイリエの胸に甘い満足感が広がった。
きっと昼間見た乳房が忘れられないのだわ。男なんて、何て単純な生き物なのかしら?
ブランシールを味方につけておけば心強いとレイリエは思う。国王からも、誰からも、一目置かれている男。
それに、彼は大層女の喜ばせ方が上手だと、淑女達の噂で聞いた事がある。
体で確かめるのも悪くないわ。
「一寸待って頂戴。ええ、きっかり五十秒経ってから入って来て下さらない」
レイリエはそう言うと自分の服装の乱れを点検して顔をしかめる。
滅茶苦茶だわ。
確かに乳房の谷間が艶やかなのは認めよう。だが、これでは強姦された娘だ。
ばさりとレイリエは服を脱ぎ捨てると窓に掛かっていた夜が開ける直前の様な藍色のカーテンを引っ張った。その拍子に金具が取れてレイリエは満足する。
そのカーテンを体に巻きつけ、レイリエは唇を噛み、頬をつねった。
ぎぃっと、音立てて扉が開く。
月明かりの下、レイリエは確かに美しかった。ブランシールは扉のところで一旦立ちどまり、レイリエを仔細に観察する。
そう、美しい。美貌だけで言うならエスメラルダに勝るかもしれない。
だが、レイリエには品がなかった。王族の血筋にありながらも、レイリエは娼婦に見えてしまう。
レイリエは大層満足だった。
ブランシールが一旦立ち止まったのは自分の美しさに感銘を受けたからであろう。そう思ったのだ。
そして。
此処から出るのだ。
今はこれしか方法がないのだ。
ブランシールの心を掴んで虜にして、そして彼自身がこの塔からレイリエを解放してくれるように。
レイリエは艶やかな微笑を見せた。
ブランシールには毒々しく見える微笑だった。だが、構わずブランシールはベッドに近づいた。レイリエはそれを黙って見ている。
窓から風が入り、ベッドの帳を揺らす。
そしてブランシールはレイリエの許に辿り着いた。
そして最初から決められていた事のように二人は口づけを交わす。
レイリエは満足していた。
ブランシールの口づけの技巧にうっとりしながら彼の背中に爪を立てる。所有印。
お上手ね。
一旦唇が離れる。
唾液が糸を引いた。
淫靡なキスにレイリエは体中の力が抜けてしまったような気がする。
これでは噂にもなろう筈だわ。こんなに巧みなキスをするのなら、身体を重ねたときにはどれ程の快楽が待ち受けているのかしら?
レイリエは塔から出してと懇願するのを忘れていた。生来の血が疼く。男が欲しいと。ブランシールが欲しいと。
だから彼女は腕を振り解かない。
目を閉じて、唇をすぼませる。
睫毛を震えさせれば戦く処女に見える筈だ。
ブランシールはその顔を見ながら吐き気を堪えていた。
ブランシールにとってただ不快なだけの女。
だが、そんな女と何回枕を交わしただろう。
相手がもっている情報を得る為、相手が最も無防備になる時間、それを狙って。
女は抱き合った直後が一番正直だ。少なくともブランシール程の技巧をもってすれば正直になるものなのだ。
手馴れた腕で、ブランシールはレイリエを寝台に押し倒すと唇を寄せる。
空が白むまで、二人はベッドの上にいた。
この塔は高貴な身分の者が囚われる塔。
ベッドも豪奢で布団もちゃんと干した布団だった。黴臭さなど何処にもない。
「もっと恐ろしいところかと思っていたわ」
レイリエは自嘲するように笑う。
自分を次に待ち受けているものは何なのだろう? 生涯の幽閉か?
だけれども、看守が男なら誑かせる。
女なら、同情を買おう。
わたくしは国王の叔母。
その時、ノックの音が響いた。
「叔母上、起きていらっしゃいますか?」
その声はブランシールのものだった。
レイリエは驚く。
ブランンシールが、こんな時間に何用だろう?
「女性を訪問する時の礼儀位、守って下さらない? それとも、賊まがいの真似をして連れて来た女に、そんな気遣いは無用だとでも? 今が何時かご存知?」
「解っていますよ。だからいきなり扉を開けずにノックしたのです。女性に対する気遣いや配慮が欠けている事は認めます。どうかお許し頂けませんか?」
下手に出てこられると、レイリエの胸に甘い満足感が広がった。
きっと昼間見た乳房が忘れられないのだわ。男なんて、何て単純な生き物なのかしら?
ブランシールを味方につけておけば心強いとレイリエは思う。国王からも、誰からも、一目置かれている男。
それに、彼は大層女の喜ばせ方が上手だと、淑女達の噂で聞いた事がある。
体で確かめるのも悪くないわ。
「一寸待って頂戴。ええ、きっかり五十秒経ってから入って来て下さらない」
レイリエはそう言うと自分の服装の乱れを点検して顔をしかめる。
滅茶苦茶だわ。
確かに乳房の谷間が艶やかなのは認めよう。だが、これでは強姦された娘だ。
ばさりとレイリエは服を脱ぎ捨てると窓に掛かっていた夜が開ける直前の様な藍色のカーテンを引っ張った。その拍子に金具が取れてレイリエは満足する。
そのカーテンを体に巻きつけ、レイリエは唇を噛み、頬をつねった。
ぎぃっと、音立てて扉が開く。
月明かりの下、レイリエは確かに美しかった。ブランシールは扉のところで一旦立ちどまり、レイリエを仔細に観察する。
そう、美しい。美貌だけで言うならエスメラルダに勝るかもしれない。
だが、レイリエには品がなかった。王族の血筋にありながらも、レイリエは娼婦に見えてしまう。
レイリエは大層満足だった。
ブランシールが一旦立ち止まったのは自分の美しさに感銘を受けたからであろう。そう思ったのだ。
そして。
此処から出るのだ。
今はこれしか方法がないのだ。
ブランシールの心を掴んで虜にして、そして彼自身がこの塔からレイリエを解放してくれるように。
レイリエは艶やかな微笑を見せた。
ブランシールには毒々しく見える微笑だった。だが、構わずブランシールはベッドに近づいた。レイリエはそれを黙って見ている。
窓から風が入り、ベッドの帳を揺らす。
そしてブランシールはレイリエの許に辿り着いた。
そして最初から決められていた事のように二人は口づけを交わす。
レイリエは満足していた。
ブランシールの口づけの技巧にうっとりしながら彼の背中に爪を立てる。所有印。
お上手ね。
一旦唇が離れる。
唾液が糸を引いた。
淫靡なキスにレイリエは体中の力が抜けてしまったような気がする。
これでは噂にもなろう筈だわ。こんなに巧みなキスをするのなら、身体を重ねたときにはどれ程の快楽が待ち受けているのかしら?
レイリエは塔から出してと懇願するのを忘れていた。生来の血が疼く。男が欲しいと。ブランシールが欲しいと。
だから彼女は腕を振り解かない。
目を閉じて、唇をすぼませる。
睫毛を震えさせれば戦く処女に見える筈だ。
ブランシールはその顔を見ながら吐き気を堪えていた。
ブランシールにとってただ不快なだけの女。
だが、そんな女と何回枕を交わしただろう。
相手がもっている情報を得る為、相手が最も無防備になる時間、それを狙って。
女は抱き合った直後が一番正直だ。少なくともブランシール程の技巧をもってすれば正直になるものなのだ。
手馴れた腕で、ブランシールはレイリエを寝台に押し倒すと唇を寄せる。
空が白むまで、二人はベッドの上にいた。