夏きらら
夏きらら
あ つーい…。
授業が始まるまではまだ時間がある。祈は草の上でスケッチブックを片手に転がっていた。
描いていたのは蒲公英。
今朝見たものでいちばん光って見えたので。
「そこに転がってるのは祈かねー?」
耳に馴染んだ声が祈を呼んだ。起き上がると畑仕事に出てきていた清張さんが立っていた。
「何ー?清張さん」
「あそこにいるのは牛じゃないかねー?何でいるかねー?」
「牛ー?」
見ると、清張さんの畑よりひとつ向こうのだだっ広い畑に、牛の姿が一頭見えた。放牧するようなところではない。
「…あれ、逃げてない?」
祈が言うと、清張さんは「繁光さんのところのかねー」と暢気に返す。
…そういう問題ではない。
「祈、誰か呼んで来てくれんかねー?腰が痛いさー」
「はーい」
近くではまだ登校中の小学生の姿がちらほら見える。あの中に牛が紛れて行ったりしたら大変だ。
とりあえず電話がありそうな方角へ歩きながら「牛が逃げた時にかける電話は110番なんだろうか?」とか祈は考えた。
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