夏きらら
夏きらら



 あ つーい…。



 授業が始まるまではまだ時間がある。祈は草の上でスケッチブックを片手に転がっていた。

 描いていたのは蒲公英。

 今朝見たものでいちばん光って見えたので。

「そこに転がってるのは祈かねー?」

 耳に馴染んだ声が祈を呼んだ。起き上がると畑仕事に出てきていた清張さんが立っていた。

「何ー?清張さん」

「あそこにいるのは牛じゃないかねー?何でいるかねー?」

「牛ー?」

 見ると、清張さんの畑よりひとつ向こうのだだっ広い畑に、牛の姿が一頭見えた。放牧するようなところではない。

「…あれ、逃げてない?」

 祈が言うと、清張さんは「繁光さんのところのかねー」と暢気に返す。

 …そういう問題ではない。

「祈、誰か呼んで来てくれんかねー?腰が痛いさー」

「はーい」

 近くではまだ登校中の小学生の姿がちらほら見える。あの中に牛が紛れて行ったりしたら大変だ。

 とりあえず電話がありそうな方角へ歩きながら「牛が逃げた時にかける電話は110番なんだろうか?」とか祈は考えた。



     *



< 1 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop