夏きらら



「比嘉祥太郎」

「はーい」

「大城勇也」

「はい」

「明日見祈」

 返事がない。

 そこで順調に生徒の名前を呼んでいた担任が、出席簿から目を離して教室をぐるりと見渡した。

「明日見ー?」

「まだ来てませーん」

「何だあいつは。また道草でも食ってるのか?」

「はーい。先生、いまーす」

 がらっと教室の戸を開けて明日見祈がひょっこり現れた。

「お前はー。何してた」

「牛捕まえてました」

「は?牛?」

 祈と担任の掛け合いに「ありえねー」と教室中が爆笑した。

「えーと…。捕まえているのはたぶん役場の人で、僕は電話かけました。繁光さんのところのヨシコかもしれないって」

「あーわけがわからん。もーいいから座れ」

「はーい」

 ぶぶぶ、とまだ笑っている祥太郎たちが席につこうとする祈をシャーペンでつつく。

「朝からヨシコ」

「本当だよー」

「マジでー?」

 担任は「騒がない」と言うと、また出席簿の名前を呼び始めた。

(ヨシコちゃん)

 人間だと何だかルパン三世のフジコちゃんみたいな響きだ。

「ヨシコちゃん、人間だったら美人かなー」

 祈が呟くと、祥太郎たちは笑った。

「はははは。祈は牛のヨシコが好きらしいぜー」

「えー?違うよー」

 話していたら、また担任に怒られた。

 学校の先生ってよくわからないけど大変だなぁ、と祈は思う。

 本当は授業なんかするより人間の美人のヨシコちゃんの話の方が好きかもしれないくせに。



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