デュッセルドルフの針金師たち後編
第12章ケルンからハイデルベルグへ

ケルンは絵になる大聖堂

翌日、いよいよデュッセルを出てケルンへ向かった。
ケルンといえば大聖堂。中世ゴシック建築の粋。
ひたすら天高くラインの脇に聳え立つ。

この日ラインは大雨で増水し広い川床スペースが濁流
で埋まり水の中に並木が林立していた。すごい水量だ。

大聖堂の正面は広いプロムナードになっていて、独り
ぽつんとドイツ人らしきヒッピーが座っていた。

「ビッテシェーン」(まいど)
「ビニッヒグートヒア?」(かまへんか?)

とジェスチャアすると、そのドイツ人は下目使いに首
を右へ傾ける。好きにしろって感じ。皮ひものビーズ
玉を売っている。

「ポリツァイシビア?」(警察厳しいか?)
「ヤー、ガンツシビア」(とても厳しい)

とその時ははっきりと答えた。しかし昼間から堂々と、
オープンできるとは幸せだ。デュッセルもエッセンも
夜だけだったのに。

「ヌア、アインシュトュンデ」(1時間だけ)
といってウインクをして、オサムはオオツキさんと
一緒に並んで黒布を広げた。いい雰囲気だ。

大聖堂をバックにすこぶる様になっている。もし、
”デュッセルドルフの針金師たち”という映画を
作るとすれば、ファーストシーンはここだ。

真っ青な空から大聖堂の見上げる十字架。カメラは
ゆっくりと大聖堂をなめるように下がってきて、
画面いっぱいの中世ゴシック建築の粋、大聖堂の

正面扉。さらに数十メートル望遠で前面の所、
我らの路上が徐々にアップで写る。背景は
ピンボケの大聖堂。

「ビッテシェーン、ツェーンマルク」
外人ヒッピーに混じって長髪のジャパン
ヒッピーと可愛い女の子が、

「ダンケ、ツェーンマルク」
「ダンケシェーン」
とケッテを売っている。すばらしいシーンだ。

その日は5本売っただけですぐにやめた。
「チュース、ビーダー、バイバイ」
といってドイツ人ヒッピーに別れを告げた。

地方ではすこぶる客の反応はよさそうだ。
ヒッピーも少ない。ケッテはまだまだドイツ
全土で十分売れそうだ。
< 18 / 61 >

この作品をシェア

pagetop