なりすまし
「ってことは吉井は連絡できない状況で、吉井の母ちゃんもなぜか家にいないんだな」

そんなことは分かっている。
瑠唯はようやく頭の中で理解したようだった。


「母ちゃんは朝、吉井が学校に出かけたのを見送って買い物にでも行った。しかし、吉井は事件に巻き込まれ……」

瑠唯はそこで言葉を切ると手に持っていた箸をおかずの唐揚げに突き刺した。

「……みたいな?」


縁起でもない。

恐らくそこにいたみんながそう思っただろう。


だが、慶太は言った。
「『吉井はちゃんと家を出ていた説』は有力ではあるな」

「でも吉井自身が連絡できないことの論理的根拠がない」
俺はすかさず言った。

どうしてこうも俺は物事の粗探しが得意なのだろうと、少し自分が厭になった。

数学でも背理法を用いた証明や、命題の反例探しはやけに得意だった気がする。

気づけばそこに言葉を発する者は誰もおらず、皆何かを必死に考えながら昼飯を貪っていた。

いつもより少しだけ静かな教室に、ブーという妙に耳につく機械音が流れ、間もなくチャイムが鳴った。

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