魔王に甘いくちづけを【完】
男はフレアを自室のベッドに寝かせ丁寧に毛布を被せると、被害を確認するべく再び外に出た。

家の裏手に回り込むと一人眠りこけている男を発見し、眉根を寄せてため息をついた。


―――やれやれ・・・お前までやられたのか。


「おい、ザキ、起きろ!!」


耳の傍で大声を出しつつ、大きな耳をつまみ、ぐいと引張ってみる。が、五本の指がぴくんと開き動くものの、起きる気配は微塵もない。



―――こりゃぁ困ったな。コイツまで眠ってるとなると・・・。

無事だったのは、ひょっとして俺だけか?

だとすりゃ、一人じゃとても対処できねぇな。

なんとしてもコイツを起こさねぇと。

さて、どうするか―――



男は、ひと思案の末思いついた策を講じるべくバケツを手にし、水場へと向かった。

いくら深く眠りこけていたとしても、冷たい水を浴びれば起きるだろう。

いきなり水を浴びせられ驚いて目を瞬くザキの様子を想像し、クククと喉の奥で笑う。

少し離れたところに小さな泉がある。

そこからなみなみと水を汲み運んでいると脇から声を掛けられた。



「――――ジーク、楽しそうだな?」


振り向いた男の瞳が大きく見開かれる。唖然としそのまま固まってしまった。

そこには信じられない人物が立っていた。



―――まさかここに来られるなど・・・。


その人物は驚き固まるジークの姿を、面白い物でも見るかのようにじっと見ている。ブラウンの髪を逆光に輝かせ白い歯を見せて。




「それにしても・・・お前がそんなことをしているとは、珍しいな?使用人は何処に行った?」

「皆、唄の乙女にやられまして。今動けるのは自分だけでして―――――・・・っと、そんなことよりも。バル様、何故こちらに来られたのですか?ご連絡いただければ、こちらから出迎え致しますのに。しかも、お一人、ですか?」


「・・・何故か、ここ数日心騒いでな。サナに水晶の中をのぞかせたら、この瑠璃の森とジークの家が浮かんだ。で、そのままの脚でここに来たわけだ。だから気にしなくていい。―――あそこに寝てるのは、ザキだな?」

「はい」

「―――で、それを浴びせるわけだな?」

「はい」

「よし、貸せ」


「は?バケツを、ですか?」



ジークはバルの顔と手に持ったバケツを交互に見る。

バルは、そうだ、と呟き首を縦に振って掌を差し出した。

ジークが戸惑いつつもバケツを渡すと悪戯っこくにんまりとし、眠るザキの傍らに立った。



「ザキ、起きろ」
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