魔王に甘いくちづけを【完】
全く・・・と呟いた瞳は、ここではなく遠くを見据えている。

ぎゅうぅっと握り締めていたハンカチを膝の上に置き、憤懣やる方なしといった感じで、扇をパシンと一旦開けてまた閉じて、てのひらにパシパシと当て始めた。


その怒り方はとても可愛らしく見えて、迫力はあまりない。

ひとしきりパシパシして気がすんだのか、ふと笑んで、視線をこちらに向けなおった。

柔らかい瞳が自らの足元に移動して、紙袋を引っ張りあげる。




「―――だから代わりと言ってはなんですけれど、私が参りましたのよ。

私など、あの子の代わりなどには遠く及ばないかも知れませんけれど、許してくださいましね。

今日は、楽しくお話しいたしましょう」



そう言って袋の中に手を入れた。

ガサガサと音をさせ、桃色の箱が現れる。

綺麗なレースや宝石があしらわれたもので、一見宝石箱のよう。



「これ、私が飾り付けを致しましたのよ。

可愛らしいでしょう?」


ちらっとこちらを見た瞳が、少し自慢げに見えた。



「えぇ、とても素敵です。どうやって飾り付けたのですか?」


「とても簡単ですのよ。

今度、教えて差し上げますわ」



細長い指が動き、パカ・・と蓋を開けると、中には大小様々なお菓子が整然と並べられていた。

それを一つ一つ摘まんで花柄の皿の上に置いていく。

ゆっくりと優雅な時が流れる。


王妃はお茶セットをすべて持参してるようで、脇に控えていた侍女が袋の中から皿やらカップやらを次々に出して並べ、今は紅茶を注いでいる。



「ほら、このお菓子、一つだけ珍しいでしょう?

外国のモノですのよ。

私の宮のコックに、今はなき国出身の者が一人おりますの」



中のひとつをつまみ上げ体の前にかざした。

桃、白、茶、と三種の色彩が等間隔に層を描いたお菓子が現れる。




「なき国といいますと、その方は祖国を失われたのですね?」


「そうですの。

私も、そういう者がいると知ったのは最近なのですけれど・・・。

なんていう国だったかしら・・・。

確か・・・甘いお菓子のような名前の――――

・・・『カフカ』だったかしら」



お菓子を持ったまま俯いて暫く考えこんでいた王妃は、オホホと笑うと、そのお菓子を小さな皿に載せてこちらに差し出した。




「まぁ、コックの国の名前など、どうでもよろしいことですわね。

これ、美味しいんですのよ。

ユリアさんに是非にと思いまして、急いで作らせて参りましたの。

彼は、貴女と同じ種族ですのよ。

食せば、懐かしく思えるかもしれませんわね」



どうぞお食べになって、と言ってニッコリと微笑んだ。
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