魔王に甘いくちづけを【完】
「はい、ありがとうございます」


微笑みを作って受けとるも、やっぱり食べる気が起きずに置いたままにしていると、まぁ貴女、いけませんわ、と言ってお菓子を移す手を止めた。



「ユリアさん、貴女。

ランチもほとんど食さなかったと、侍従から聞いておりますわ。

あんな恐ろしいことの後ですもの。

仕様のないことでしょうけれど、体に良くありませんわよ?

―――特に貴女は、か弱いお体ですもの」


「・・・はい。申し訳ありません」



そうは言われても、なかなか食べる気にはなれない。

こうして王妃様と一緒に過ごしていてもふと思い浮かんでしまう、あの血の付いた爪とじっとりと濡れた服。

それに、血の匂いが鼻についてはなれない。

姿を見たのは僅かな時だったのに、強烈に印象に残っている。


それに垣間見た記憶も加わって、どうにも胸が締め付けられてしまう。

苦しくて哀しくて、切なくて。

暫くは、何も喉を通りそうにない。

ランチもスープを飲むのがやっとだった。



「まぁ、仕方がないですわね・・・」



王妃は少し考え込むような素振りを見せながらも箱の中にあるお菓子を全部皿に移し終わり、パコン・・と蓋を閉めた。

王妃の行動を見計らっていた侍女が、スススと動いて脇に立った。

両の白い手が箱を持ちあげ横に差し出したのを、侍女が恭しく受け取って後退りしていく。




「・・・ねぇ、ユリアさん。

こんなお菓子ですみませんけれど、たくさんお食べになってね・・・。

お食事は無理でも、この程度のものであれば大丈夫だと思いますの。

宜しいこと?しっかりと栄養を取ってゆっくり体を休めて、病気にならぬようにしてくださいましね。

そうでなければ、あの子が帰城したときに、私が叱られてしまいますわ。

あの子ったら、ああ見えましても怒りますと結構怖いんですのよ?」




いいですこと?と言って、もぞもぞと身動ぎをして可愛らしい咳払いを一つした。



「こう言われてしまいますわ。

何も身に覚えのないことで、睨まれるのは嫌ですもの」



そして、すぅ・・はぁ・・・と深呼吸してる。

それは、何だか緊張しているように見えて・・・。



何をするのかしら。



興味深く見ていると、澄ましていた顔が、唇を尖らせ眉を寄せ怒ったような表情に変わった。
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