魔王に甘いくちづけを【完】
「・・・丸いわ」

薄紅色の唇から呟きが漏れる。


今は、バルの一行が狭間の洞窟の中で光に包まれる前。

ユリアの部屋にやっとこ灯りが点いて間もない頃。


うっとりと輝く黒い瞳は、煌々と輝く月ではなく、城宮のパティシエが作ったデザート『月夜のまんまるムース』でもなく、天蓋の上でうとうとしてる白フクロウを見つめていた。

ガラス玉の瞳はしっかりと閉じられていて、頭はホワホワの羽毛の中に埋まってる。

ちょっぴりふらふらしてるのがまた何とも愛玩心をそそって、目が離せない。


・・・触ってみたいけれど、ダメよね・・・?


そんな考えがむくむくと湧きあがる。

何せ、狼だらけになった城を期待していたのに、ジークに“狼にはならん”と言われてしまって、頭の片隅にあった、癒されたい願望が見事に打ち砕かれてしまっていたのだ。

加えて、壁際から放たれる圧力。

おまけに今までに起こった散々な出来事で、精神的にかなり参ってきている。

癒しを求める気持が強まるには、十分過ぎた。



丸い綿の塊のような姿。

実際に触れたら、嘴で攻撃されちゃうかも。

正体が知れないのは、本当のことだもの。

気をつけなくちゃいけないのよね。

でも・・・



「可愛いわ・・・」


思わず呟くと、壁の方から低い声で呟かれた。



「そんなことより、早く済ませて下さい」

「分かってるわ」


むっすりとしつつ返答する。

白い姿から何とか視線を剥がして、目の前にあるものを見る。



「コレ全部、食べなくちゃ・・・ね・・」


テーブルの上には、城宮のコックが精魂込めて作った食事が乗せられている。

大体、半分以上食べたところで手が止まってしまった。

何だか食べてる気がしなかったのだ。

なんとも味気なくて。

ただでさえ一人の食事は、もそもそとしてて侘びしく感じてしまうのに、刺さるような視線を感じて妙に落ち着かなくて。

アリは無言のまま瞳を閉じてるというのに、どうしてこんなに存在感があるのかしら。

こんなに主張してこなくてもいいのに。


などと、そわそわしながらの食事だから、何を口に入れても味がまるでわからない。

『ここに居ります。しっかり見ています』

と、ひしひしと伝わってくるあの方の気は、夜が深まるごとにどんどん強くなっている。


いっそのこと食事をやめようかと思うけれど、両手を腰に当てて見下ろしてくる姿が思い出されて、思い止まるのだ。
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