魔王に甘いくちづけを【完】
その後、頑張って食事を平らげたユリアは、お茶を飲みながら月を眺めていた。

じっと見つめていると、月の真ん中に腕を広げた人が見えるような気がした。

―――模様が、そう見えるのかも・・・。

私には、何の変鉄もない美しい月だけど、魔の方たちにとっては特別なものなのよね。


“特に、我々狼族に多大な影響がある。ヘカテは満月の度に娘狼に化けて、路地に現れては男を誘い込み、繁殖行為をしたといわれている”


小瓶をくれたとき、ジークがそう言ってたっけ。

種を増やすためだとかって。だからお前も気をつけろって。


でも、ジーク。小瓶は取られてしまったの。

どうやって身を守ればいい?


考えて、ハッと気付く。

テーブルの上の食器はまだ片付けられていない。

アレも、あそこにある。

アリは相変わらず目を瞑ったままだわ。

これなら――――



そぉっと動く。

音を立てないよう、ゆっくりそぉっと。

衣擦れなんか、決してたてちゃいけない。

気付かれてしまうわ。


そろそろと歩き、目的の物を見据える。

アレさえ持ってれば、アリにも勝てるかもしれない。

勝てなくても、怯ませることくらい、出来るかも―――


アリは、まだ気付いてない。

胸がドキドキしてきた。

手も震えてる。

もう少し―――――



指先がそれに触れる。



「貴女様は何を隠し持つおつもりですか」



ビクッと体が震えて、手にしたフォークが皿の上に音を立てて落ちた。



「別に、持っていても構いません。ですが、それでは私を始めとした狼族の皮膚には傷ひとつ付けられません」


「か・・・隠し持つなんて。そんなこと、考えてないわ。―――私は、片付けようと思っただけよ」


アリを睨み付け、踵を返してつかつかとソファまで戻る。


―――憎らしいわ、どうして気付くのかしら。



「で、片付けないのですか」


笑みを含んだような声に益々ムッとする。

完全にからかわれてる。

全く本当に、無駄に頭がいいんだから。



「もう、やめました」


プンプンしながらお茶を飲む。

フォークじゃ歯が立たないなら持っててもしょうがない。

他の手を考えなくちゃ。

こんなことなら、あのときリリィに貰っておけば良かったわ。


ジークも今頃はきっとフレアさんのところよね。


マリーヌ講師、リリィ。

次々に顔が浮かび上がる。


皆は、何事もなく、パーティーを楽しんでるといいな――――
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