魔王に甘いくちづけを【完】
ゆっくりワイングラスを傾ける、細く長い指。

これは、マリーヌ講師のものだ。


「外に、出ませんか」

「えぇ、そうね。行きましょう」


隣から、そんな会話が聞こえてくる。

仲良くなった男女のものだ。

自分には関係のないこと、再びグラスを傾ける。

こくん、心地よく喉を通るワイン。

ふと思う。


―――そういえば。友人は、どうしてるのか―――


左右に視線を這わせ、色香たっぷりの薄紫のドレスを探す。

・・・と。


―――見事に、迫ってるわね―――


会場の隅の方で、窓の外を見ながら男性にしな垂れかかっているのが見える。

男性は体の向きを変えて、両手で腰を抱き始めてる。

友人の耳元に男性の顔が寄せられていく。

あの様子だと、友人たちももうすぐ外に行くのだろう。

パーティーもそろそろ中盤。

周りでは結構な数のカップルが出来つつある。

みんな甘い熱を放ってて、立ち昇る気もハート型に見えてしまうほどだ。

さすが、ヘカテの月と言うべきか。


―――でも。私は、ここまでのようね―――


先程まで傍にいた男性たちは、一人また一人と減っていき、今は金髪青目のキザじゃない方が残っているだけだ。

このお方も、もうすぐ他の女性の元に行くはず。

さっきからずっと無言だし、何を考えてるか分からないが、周りに視線を這わせ続けている。

きっと、次に話しかける女性でも探してるのだろう。

この方が、次に口を開いた時が最後だ。私も帰宅の意を告げよう。



「・・・マリーヌさん。今日は楽しかった」



―――ほら、きたわ。いつもの展開。

この方が何か言うより先に、帰る旨を伝えなければ。

そのほうが、他の方のところに行きやすいでしょう。

経験からの行動だ。

ふぅ・・と小さなため息をつく。

いつもの、こと―――・・・


眼鏡をくぃと上げて相手を見る。



「えぇ、そうですわね。私も楽しく過ごさせていただきましたわ。ですから、もう―――」

「我々も、外に行きませんか」

「そろそろ帰宅し―――――・・・へ!?」


変な声が出てしまった。

耳が、おかしくなったのだろうか。

この方は、今、何て仰った?



眼鏡の蔓を持ったまま、青目をじっと見上げる。


「あぁ、すみません。変な意味ではありません」


青目が少し左右に揺れたあと、周りを見るようにすーと動いた。



「二人きりになりたいのです」

「―――――へ?・・・そ・・・それは、ど・・どういう意味でしょうか」



―――予想外の台詞。

まさか、こんな私に欲情したというの?

まさか―――



体を寄せ合って会場を出ていくカップルが横目に映る。

こくりと息を飲んで、相手の言葉を待った。


「―――ゆっくり話をしたいのです。ここじゃ、音楽や人の声が煩いでしょう」


と、微笑む。あくまで冷静で紳士的な態度。

他の男性のように、あからさまな熱を出してこない。


「貴女を、もっと知りたいのです。私では、相手として不足ですか」
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