魔王に甘いくちづけを【完】
「い・・い・・・・いえ、そんなことは御座いません・・・ですが・・・あのぉ・・・」


うろたえてしまう。何しろ初めての事態。

一気に血が上ってきて頭がふらつく。


・・・私こそ、貴方のことを知りたい。

こんな魅力のない私をもっと知りたいと仰るなどとは、何故だろう。

やっぱりこの方は、どこかおかしいのかもしれない・・・。


こんな素敵な方が、本当に・・・?


見上げれば微笑みが降ってくる。

この状況を素直に喜べない自分がいる。

口から出かけた、私で良いのですか、という言葉は飲み込まれた。


男性の手がそっと背中にあてがわれたからだ。


「・・ひっ・・・」


びくっと反応すると、ふ・・と優しい笑顔が向けられた。


「想像以上のお方だ・・・・良いですね、行きますよ」

「は・・・はい」


戸惑いつつも、促されるままに、会場の外へ――――



人生初の、胸ときめく展開に陥ったマリーヌ講師。


そして、もう一つの会場。

リリィの方は――――



5対5だったお喋りの輪がいつの間にかばらけて、1対1へと変化していた。

それぞれがお気に入りの相手となり、いろんな場所に散っていき二人で会話の花を咲かせ始めている。

リリィは、会場の真ん中で男の子とダンスを楽しんでいた。


「どう?外・・散歩しようか」


息を整えながらにこっと笑う男の子は、ディーンと名乗った。

さっきまでダンスをしていたせいで息が上がってるリリィ。

熱いのもあって、風に当たりたいと思い、気軽に承諾する。



「いいよ、あ。飲み物持っていこうよ、喉渇いちゃった」

「散歩に飲み物は、ちょっと・・・ここで飲んで行こう」


ディーンは2つ年上だと言っていた。

ザキと同じ年の18歳。

単純にも、それだけで親近感と安心感を持っていた。

皆の傍から離れちゃいけないと思うのに、この子だったらいいか、なんて根拠のないことを感じた。




「こっちだ。噴水が綺麗なんだよ」


ディーンに手を引かれ、二人で会場に隣接されてる公園へと足を運ぶ。

満月が煌々と光り、灯りなどなくても難なく歩ける。



「あ、あのベンチに座ろうよ」


リリィが指差したのは、噴水の前にある二人掛けのもの。

ディーンがハンカチを敷いてくれて、その上に遠慮がちに座る。

初のレディ扱いに、ちょっぴり大人の香りを感じてときめく。


ザキ以外の男性と過ごすのは初めて。

少し警戒心を持ちながらも、屈託のない笑顔を零し、ディーンとの二人きりのお喋りが、始まった。
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