魔王に甘いくちづけを【完】
リリィが他の男性と一緒にいるなんて、そんなことは思いもしないザキ。

今はバル達と一緒に火を囲んで座っていた。


あの時、光に包まれて体が傾いたと感じたのと同時に、視界は闇の中に落ちた。

ひゅーんと何処までも落ちる感覚に、綱だけは離すまいと必死だった。

気付けば地面に脚が付いていたが、クラクラとした感覚がなかなか消えない中、うめき声を上げるサナの声が聞こえてくる。

ぼんやりと霞がかかったような頭を叱咤して、興奮していななく馬を懸命に宥めた。


「よし、ここで野営だ」


顔を顰めて額に手を当てたバルが、呻くように皆に命じて、今に至る。



馬は木に繋ぎ水と飼葉を与えてある。

テントをはり火を炊き、ほっと一息吐いた皆が手に持ってるのは簡易な食事。

騎士団が野営の際に作るお鍋一つでの簡単料理だ。

適度に切った材料を放りこんでスープで煮るだけのもの。

これと、火にかざして焼いた肉を頬張る。

もちろん、肉は現地調達。

先程ブラッドが仕留めた小動物のもの。

有り難く残さず全部戴く。



ザキは隣に座って肉を頬張るバルを見た。

事あるごとにチェックするようジークに言われている。

少し疲労の色が見えるが、まぁとりあえず異常なく大体元気そうだ。



「―――ここが、例の場所っすか」


自分も肉を頬張りながら尋ねる。

辺りを見回せば、ラッツィオと変わらない景色。

背の高い木々。

遠くで獣の遠吠えが響き、名も分からぬ草花が咲き乱れ空気も美味しく、空には月が輝いている。

違うのは、満月じゃないということだけ。



「初めて来たからな。目的地と思うが、そうでないかもしれん。口上に失敗がなければ、ここが、そうだ」

「ふーん・・・そうっすか。ここが」



想像していたのと随分違う。

危険だとばかり聞いていたから、もっと暗くて妖魔がウヨウヨと蠢く世界だとばかり考えていたのだ。



―――これなら、リリィも連れてこれるじゃねぇか。

アイツに違う世界を見せてやりてぇ。

ポケットに入れてくりゃ良かった―――


もしゃもしゃと肉を噛み砕き、骨を炎の中に放り込む。



「すまんな、ザキ。リリィが気にかかるだろう?あっちはヘカテの夜だ」

「あぁ、そのことっすか」



ぼりぼりと頭を掻いて照れと動揺を隠す。

もう否定できないほどに、自分の気持ちには気付いていた。



「リリィは可愛いから心配だろう」

「・・・大丈夫っすよ。多分今頃は部屋で寝てるだろうし」
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