魔王に甘いくちづけを【完】
「綺麗な赤毛だね。この国じゃ珍しい色だよ」


ディーンはうっとりと髪を見てる。

そんなに、この赤毛が気に入ったのかな?


「褒めてくれてありがとう。実は私、ラッツィオの子じゃないんだ。出身はロゥヴェルなの。お妃候補になってるお方について来たの」

「ロゥヴェルから来たのかい?王子様にお妃候補が出来たって噂、本当だったんだ」

「そうだよぉ。すごく素敵なお方なんだよ。綺麗で優しくて、私のこと可愛がってくれるの。大好きなんだ」

「へぇ、そうなんだ。そんな素敵なお方なら、お妃にぴったりだね。・・・・じゃぁ、あの国にはリリィみたいな赤毛の方がたくさんいるのかい?」


「んー、そうでもないよ。少ない方だと思う。あんまり外出したことないから、よくわかんないんだけど。小さい頃、お爺さまによく言われたよ。“お前の赤毛は母様譲りだ”って。艶艶の綺麗な髪は皆のあこがれの的だったんだって。実は一度も会ったことないんだけど、誇りに思ってるの。だから人に誉められるとすごく嬉しい。ディーンは、この赤毛を気に入ってくれたんでしょ?ありがとう」


「いや、赤毛っていうか、それもだけど。リリィ自身が、気に入ったんだけど・・・?」


背もたれにあった腕がするんと下りて、細い肩を包んだ。

もう片方の手は、膝に置いてる手の上に重ねられた。


「・・・へ・・・?」

「彼氏、いる?今日がどんな夜か、知ってるよね」



―――どんな夜かって。

ロゥヴェルでは、魔の血が騒ぐ夜で、いろんなとこで小さな諍いが起こるけど。

ここでは――――


「返事がないけど、いないって考えてもいいんだよね。・・・まぁ、彼氏がいたら、こんなとこには来ないか」


ディーンは一人でぶつぶつ言ってクスッと笑って、自己完結してる。

言わなくちゃ。

彼氏って言うほどのことはしてくれないけど。

手しか握ってくれないけど。

私には、ザキがいるもん。

初めては全部ザキにあげるって決めてるんだもん。



「います!彼氏なら、いるわ」



膝の上の手は二つ合わせてぎゅっと握られて、肩を掴んでる手はますます強くなってぐっと引き寄せられていく。


「その彼氏は、今ここに居ないだろ?どこにいるんだ―――ウソ吐くなよ」


まるっきり信じてくれない。

このままだと変なことされちゃう。

―――っ、薬!ジークさんの小瓶使わなくちゃ!


急いで手を引き抜いてポケットの中を探る。



初の緊急事態。

緊張して手に汗が滲んで来た。

焦る手は震えてしまって、全く小瓶を掴んでくれない。

こうしてるうちにもディーンの顔が迫ってきてて、もう逃げられそうにない。
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