魔王に甘いくちづけを【完】
見れば見るほどボロボロの体。

羽は乱れて血がたくさんついている。

一体どうしてこんなことに――――?



「どうしたんだ。何があった?」


開け放たれたドアの向こうから急ぎ足で来たジークに駆け寄っていき、よく見えるよう腕を差し出した。



「ジーク!お願い、この子を助けて欲しいの!」



縋るように見つめると、一瞬白フクロウさんに視線を落としたジークの手に、肩をぽんぽんと叩かれた。



「あー、いいから。ちょっと落ち着け。ソイツを見付けたときの状態はどうだった」

「朝散歩に出ても、いつもはアリの講義前に戻ってくるわ。だけど、今日はとても遅くて。何かあったのかと心配してたの。そしたら・・・ついさっき戻ってきて――――すぐに、ここに・・・床に、倒れ込んでしまったわ。それからピクリとも動かないの」


「うーん、散歩・・・か。帰ってすぐとは・・・」



つかつかと窓際まで進み抱えていた鞄をゴトンと下ろして、待ってろ、と言いながら鞄の中から白い布を取り出してソファの上に広げた。



「こっちだ―――ここに移してくれ。静かに、そっとだぞ」



一部も漏らさないよう白い体を診るダークブラウンの瞳は布の上に横たえる間もずっと離されることがなく、爪の先から羽の先端まで隅々まで素早く動き回る。

体の中まで見通してるかの様な鋭い瞳。

初めて間近で見る医師ジークの仕事ぶり。

毎朝の診察時とは全く違う顔つきは、白フクロウさんの状態が酷いことを伝えてくる。



「うーむ・・・これはまた、随分と激しい喧嘩をしてきたな。あちこちの羽が抜けてるし中にも細かい傷がたくさんある」

「喧嘩?どうして・・・ジーク、この子は助かる?」


「なぁに、そんな心配するな。大丈夫だ、ほら、ちゃんと息してるだろう?この程度なら、コイツにとって、命に関わるものじゃぁない。・・・・今動かんのは、疲れて寝てるからだぞ」


「え・・・それって、眠ってるだけ・・・なの?」



―――本当に?気を失ってるんじゃないの・・・?


じっくり見ても羽に覆われてるから顔色も分からないし、いつも表情豊かに語ってくる瞳は固く閉じられてる。

それでもジークには状態が手に取るように分かるらしい。

流石、バルが“この国一番だ”と信頼をおいてるお医者様。

数か所の触診をした後、何やらぶつぶつ呟きながら鞄の中をがさごそと弄りだした。

次々と出される見たこともない医療器具と薬瓶。

あの中にどうやって入っていたのか、と思えるほどの物がソファテーブルの上に整然と並べられていく。
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