恋のレシピの作り方
「私、アルページュに勤める前に、一度一条さんのメニューがどうしても食べたくて店に行ったんです……あのフレンチの巨匠の味ですよ? 憧れないわけないです。そしてあの時食べた料理にすごく感激して……」



 今でも鮮明に覚えている、その時の胸打つ衝撃を―――。


「一条司シェフってどんな人だろうって、特別にお願いして実は厨房見せてもらったんですよ」


「は……? いつだ? 俺は知らないぞ」

 アルページュで勤めたいと思うきっかけとなった昔話を、よもやこんなところで暴露するとは思いもよらなかった。奈央の話に食いつく一条がおかしくて奈央はクスリと笑った。



「その時の一条さんの真剣な目が忘れられなくて……ずっとずっと忘れられなくって、この人の下で仕事がしたいって……そして気がついたらアルページュに転職してました」


 あの時のことが懐かしくなって、奈央はつい顔を綻ばせる。いつか話そうと思っていた想いが解放されて、奈央はひとときのカタルシスを感じていた。
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