恋のレシピの作り方
 丸山は生田の後釜で入ってきた期待の新人で、素直で真面目で一生懸命なシェフの卵だ。
 

「あの、春日さん……一つ困ったことがあって」

「……どうしたの?」

 俯きながらレシピを眺める丸山を、訝しげに奈央が覗き込む。

「僕、今一生懸命フランス語も勉強してはいるんですが……やっぱりまだ全部は理解できなくて……」


(そうだった……!)


 丸山は縋るような目をして助けを求めている。奈央はバツが悪そうにレシピを見た。



「そ、そうだよね……ごめん、一条シェフが言ってるのはね―――」

 奈央もアルページュの面接時に一条のレシピは全てフランス語であることを説明された記憶がある。それから仕事の合間を縫ってフランス語を独学で勉強した。けれど、やはり新人には酷な話だ。

 奈央がレシピを軽く説明しようとしたその時―――。

「おい、お前なにをやっている?」


「「ッ!?」」


 奈央と丸山が背後から聞こえたその低い声に、二人揃って肩を跳ねさせた。


 きっと振り向けば、きっと険しい顔をして一条が腕を組みながら見下ろしているに違いない……。そう思いつつも恐る恐る振り向いた。



「あ、あの……春日さん、やっぱり俺、ちょっと自分で辞書引きながらやってみます」

「あ、丸山君――」

 丸山はその場から逃げるように離れていってしまった。


「春日、余計なことしないで自分の持ち場へ戻れ」


「は、はい……」

(またやっちゃったかな……)



 奈央は肩を落として仕事の続きにかかろうとした。


 ―――その時。
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