夢の外へ
そう言った杏樹に、
「…ありがとう」

私はお礼を言った。

「ケータイ持ってるなら、社長さんに電話してね」

「わかってるよ」

杏樹はお母さんみたいだ。

こう言う性格だから仕方ないかも知れないけど。

「じゃあ、ご飯作ってくるから」

「わかった」

杏樹がキッチンへ行く。

彼女を見送った後、リビングのソファーに腰を下ろした。

シャツのポケットからスマートフォンを出した。

千景に電話しようか?

それとも、メールがいいかな?

考えながら、手の中でスマートフォンを弄ぶ。

千景はその後、どうなったのだろう。

激昂したあかりさんにコーヒーをぶっかけられたうえに、カップまで投げられて。

あのまま会社になんて戻ってないよね?

コーヒーでびしょ濡れのまま会社に帰ったら、社員からの注目は集中だ。

噂のターゲットになることは間違いないだろう。

そう思っていたら、
「ご飯できたよー」

杏樹の声がした。
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