夢の外へ
久しぶりに見る千景の顔が嬉しくて、涙が出てきた。

「――千景…」

「今そっち行く」

そう言った千景の足取りは、ヨロヨロとしていてまるで酔っ払いのようなおぼつかない足取りだった。

それでも彼は私のところにきてくれた。

「じゃあ、私はこれで」

「杏樹?」

名前を呼んだ私に、杏樹はニコリと優しく微笑む。

――2人に任せる

杏樹に言われたような気がした。

私が首を縦に振ってうなずいたことを確認すると、杏樹が出て行った。

「よいしょ」

さっきまで杏樹が座っていたパイプ椅子に千景は腰を下ろした。

「もう、大丈夫なの?」

私は聞いた。

「5日も眠ってればな。

傷は少し痛むけど」

千景は肩をすくめて笑った。
< 155 / 163 >

この作品をシェア

pagetop