夢の外へ
「――ムカつく」

「はっ?」

聞こえたらしい。

聞かれたくなくて、私は寝たふりをした。

「んだよ、寝言かよ」

千景が呆れたのがわかった。

そうだよ、寝言だよ。

ムカついたから言ったんだもん。

あなたは私が何にムカついているか全く知らないでしょうけど。

間違っても好きにはならない。

間違っても好きになりたくない。

だって私たちは、契約だけの関係。

お互いの利害が一致しただけの関係。

彼は私のことを知らない。

私も彼のことを知らない。

誕生日も、血液型も、私の前につきあってきた女性のことも。

私は何も知らない。

でも、それが私たちの関係だもん。
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