プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ
「せめて君の可愛く感じてる顔を見てから、出社したかった」
 からかうように言ってやると、美羽は頬を朱に染めて、ぷいっと逸らす。

「ダメなの?」
「……仕事にならなくなります」

「まじめだな、君は」
「いけないんですか?」

「いや。最近、妙に逞しくなったなと思ってね」

 美羽はあれからとても強くなった。僕を献身的に支えようとしてくれているのが分かる。

 だから尚更愛おしくて仕方なく、たまに彼女を泣かせてやりたくなるし、甘えさせてやりたくなる。

「君の寄りかかれる場所はある?」
 
 ワイシャツに袖を通し、背広をどうぞと嬉しそうに構える美羽に、僕は思わず訊いた。

「こういうこと言ったら……ダメかもしれないけど」

 美羽は背広を通したあとで、後ろからそっと抱きついてきた。彼女の左薬指に光が当たって眩しい。僕と揃いのマリッジリングだ。

「何?」
「……仕事で一緒にいられるの嬉しいです。でも、一秒先の会話はいつも邪魔されるから……その、……」

 もごもごと口ごもる彼女に痺れを切らして、僕はそっと手をよけさせ、前を向かせた。


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