スイートなメモリー
肉子に俺専用の首輪を嵌めようとしたら、いつの間に乗馬鞭から持ち替えたのか、雪花女王の一本鞭で俺の手元から首輪がたたき落とされた。
「私の肉子に首輪なんか嵌めないで頂戴」
「……ごめんなさい」
床に落ちた首輪を拾って、元々つけられていた人形に嵌め直す。
肉子はきちんとソファに座らせる。
「俺、こんな情けないのにご主人様願望なんておかしいかしら」
雪花さんが、肉子の髪を撫でながら俺に笑いかける。
肉子と雪花さんはそっくりだ。
俺は肉子が実は雪花さんをモデルにして作られた人形なのではないかと思っている。
「普段が情けないご主人様だってたくさん居るわ。学人さんだって、奴隷が出来たらもっとしっかりするかもしれないわよ。ねえ肉子」
ああ。
好きな女を屈服させたい。
俺にだけかしづかせて、俺にだけ尽くして、俺の言うことをなんでもきくように調教したい。
それでいて、俺に頼り切るのではなく、自らの足でちゃんと立とうとして、俺などいなくても生きていけるのだとうそぶきながら、俺がいない時には寂しがって泣くようなそんな奴隷が欲しい。
ただ甘えて頼っておぶさるだけの奴隷ならいらない。
時には俺に反抗して悔しがる顔を見せながら、主人に歯向かう羞恥を持って涙を流すような、そんなアンビバレンツを持った奴隷が欲しいのだ。
「誰か素敵な女の子が、学人さんなんか大嫌いと言いながら俺を好きになってはくれないかしら」
「学人くんは屈折してると思うよ」
「屈折してなきゃSMなんかはまりませんよ」
「それもそうね」
あまり飲み過ぎるとまた明日ミスして前崎係長に叱られるかもしれないなと思いながら、俺は三杯目のジンライムに手をつけた。
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