スイートなメモリー

gap is moe

どういうわけか、早起きした。
夢見が悪かったのだ。
雪花女王と、なぜか自力で立っている肉子のふたりからさんざん鞭打たれるという夢を見て、冷や汗をかきながら目覚めたら、普段より一時間も早かった。
二度寝してやろうかと思ったが、百パーセント寝過ごす自信があったので早起きは三文の得、とそのまま起きる。
とはいえ、朝食を作るほどの元気はなかったので早く出発して会社の近くで朝食を取ってから出社することにする。
恵比寿駅の駅ビルのフランチャイズコーヒー店に入る。
レジには数人並んでいて、俺よりふたり前に並んでいた女性が、財布を落として小銭を床へばらまいた。
小銭と床がぶつかりあう音が店内に響く。
あーあー、いたたまれないだろうなあ。
俺の足下にも数枚の小銭が転がって来たので、さすがに無視できなくてかがみ込んで拾う。
落としたご本人の手も伸びて来た。
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ」

伸ばされた手に、小銭を渡そうと床から顔を上げたら、そこには見知った顔があり、その顔はものすごく驚いた表情を見せた後で、とても恥ずかしそうにしてから、なぜかちょっと怒った顔になった。
俺の方はというと、なぜかにやけてしまう。
慌てて真面目な顔を作り挨拶する。
「おはようございます、前崎係長」
「……おはよう、三枝君」
前崎係長は怒った顔のまま、店を出て行こうとしたので慌てて呼び止める。
「前崎さん待って待って。朝飯食うんじゃないんですか」
振り返ったその顔はまだ怒った顔をしていた。なぜ?
「そう思ったけど、やめたのよ」
「どうして。一緒に食べましょうよ。なに食べますか? 俺買っておくので前崎さんは席取っておいてください。ね?」
前崎係長は少しの間悩むような素振りを見せたが、俺の誘いを否定も肯定もしないで「じゃあ私はBサンドセット。ブレンドで」と言い残して喫煙席へ向かっていく。
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