スイートなメモリー
……だけど。
私があの店を出たのが八時二十分。
会社の始業時間が九時。
どうして三枝君は九時二十分に会社に来るの?
どうしたら駅から徒歩五分の会社に遅刻してきちゃうの?
意味がわからない。
……でも。
三枝君っていつも遅刻気味だよなあ。
彼女の家が近かったりとかするのかな。
ていうかなんで私、そんなに三枝君のこと気にするんだ。
思いがけず間近で見た顔がちょっとかわいいなと思ったから?
私が失敗したところを見ても「前崎さんがそんな失敗するなんて!」みたいに驚かないで「こんなことくらい誰にでもありますよ」ってさらっと流してくれたから?

いやいやいや。
今年の新入社員の中でもダントツで出来の悪い三枝学人よ?
なにをやらせてもどうにもやる気の見えない三枝学人よ?
どうして私が、そんなの気にしなくちゃいけない?
もっと仕事頑張ればいいのに。
入社試験の成績はよかったんだからさ。
やればできるんだろうなと思うので、ついキツメに叱ってしまう。
部下を叱ってばかりいるのもよろしくないのだけれど。
叱るのは別に三枝君に限った話じゃない。
係長になってから、部下の動向には極力気を配るようにしている。
目についたはしからついこまかく注意してしまうため、若干煙たがられているのもわかってる。
自分が会社の中でなんて揶揄されてるかくらいは知っている。

係女王様。

なんと不名誉なあだ名か。
私の注意の仕方も良くないのだろう。ついしつこく叱ってしまい、相手が謝るまで小言を言い続けてしまう。自分でも良くないとは思ってるのだ。どうも仕事に余裕がない。
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