スイートなメモリー
フリップを開く。受信メール。
差出人、三枝学人。
えっ? 行くのを決めたのにまだ返事をくれるの?
驚いてメールを開く。
件名。「ありがとう」
本文。「嬉しい。楽しみにしてます。お店、お任せしますね」
素直な感謝の言葉に、不覚にも涙が浮かんだ。
私も嬉しい。

パソコンを立ち上げて、目当てのレストランのサイトを開く。予約フォームがあるのを確認するが、ちょっと考え直してまだ営業時間内なのを確認してから、店に電話をかけた。
「すみません、明日なんですが二名で予約を取れますか? はい。七時から。あ、大丈夫ですか。よかった。ではお願いします。はい、二名です。では明日伺います」
通話を終えてから、パソコンで店内の写真を眺める。
壁が水槽になっていて、たくさんのくらげが泳いでいるレストラン。私はくらげが好きだ。可愛らしいと思う。
三枝君は、このくらげを見たらなんて言うだろう。
こんなデート御用達みたいな店に連れて行って、物欲しげに思われたりはしないだろうか。それが少し不安だった。

「あ」
私は大事なことに気がつく。
「明日なに着たらいいんだろう!」
男の人と二人でデートだなんて、一年ぶりくらいだ。彼氏と別れてから、そんな機会はとんとなかった。
「下着、おかしくないの選ばなくちゃ」
服が地味でも、せめて下着くらいは綺麗なものを選びたい。
食事のあとを期待しているわけではないけれど、女としてのせめてもの身だしなみだ。寝室のクローゼットを空けて、下着を選ぶ。
まずい。またイメージを壊してしまうかもしれない。
薄いピンクとレースのオンパレード。
実は少女趣味なところがあるだなんてわかったら、幻滅されてしまうかもしれない。かといってなんの飾りもないベージュの下着というのもどうかと思うし……。
それほどレースの多くないと思われるサテンのペールピンクの上下を取り出して、あわせる服を選ぶ。
服はいつも通りの方がいいか……。
うきうきしている自分に気がついて、おかしくなった。
さっきまで、どうして? どうして私なんか? とぐるぐるしていたのに、誘われて素直に喜んでいる。
どうなるかはわからないけれど、少なくとも明日は食事を楽しめたらいいと思う。
それだけでもきっと、いい思い出になるかもしれないから。
着る服と下着を、ベッド脇のサイドボードに置いて、寝ることにした。
明日が、どうかいい日になりますように。



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