スイートなメモリー
「部屋は俺が選んじゃうからさ。あっちにエレベーターあるから芹香さんはそこで待ってて」
右手の奥にエレベーターが見えたのでそちらに向かう。
エレベーターの前には円柱型の水槽がいくつかあった。
その水槽はさっき食事をしたレストランほど大きくはなくて、中で泳いでいる生物もさっき見たよりは数もささやかだったけれど、それでもくらげに違いなかった。わざわざ、連れて来てくれたんだろうか。
水槽に近づいて、円柱の中をふわふわと浮かぶくらげを眺める。
三枝君が、後ろから私を抱き寄せた。
首筋に吐息を感じて思わず身を固くしてしまう。
「あんな立派じゃないんだけどさ。ここにもいるの思い出したから、見せたくて」
腰に回された手をそっと握ってみる。
「ありがとう。かわいいね」
「良かった。だけど誤解しないでね? ここ、パーティーとかでも使えるから来たことあって、デートで来たとかじゃないから!」
慌てて私から離れて、誤解を解こうとするように弁解する三枝君をかわいいと思ってしまった。
大人なんだから別に過去に誰かと来たことがあっても気にしないのに。
……気にするかもしれないけど。
「かわいいね」
くらげがかわいいのではなく、目の前にいる私をここに連れて来た相手をかわいいと思っていることを伝えたくて、じっと見つめる。
三枝君は真っ赤になって「くらげ、かわいいなら良かった」とつぶやいて、私の手を引いてエレベーターのボタンを押した。
< 42 / 130 >

この作品をシェア

pagetop