スイートなメモリー
「コーヒー飲むならお湯湧かすけどどうする? それともすぐシャワー浴びる?」
コーヒーはいらなかったのでそれを伝えて、部屋の隅にあるテーブルセットの椅子に腰掛ける。
高くないなんて言ってたけど結構大きな部屋。シックなデザインのベッドカバーがかけられたダブルベッドに、大きな薄型テレビ。お風呂も鏡張りや部屋から見えるようなラブホテルっぽい内装ではなくて、落ち着いた感じの部屋だけれど、枕元にはしっかりコンドームが置かれていて、イヤでもここがラブホテルだと意識させられる。
シャワーだけで冷えるといけないからお湯溜めておきます、と三枝君はてきぱきと動く。私はラブホテルなんてあまりにも久しぶりでどうしたらいいかわからない。
手持ち無沙汰なので、タバコに火をつけた。
「バスタオルとか、お風呂場に置いて来たからいつでも入れますよ。一緒に入る?」
三枝君が、フェイスタオルで手を拭いながら部屋へ戻って来た。パーティーで、なんて言い訳してたけど、ホントは誰かと来たことあるんじゃないのかな。
お風呂一緒に入るなんてさらっと言うし、三枝君ってやっぱり結構遊んでるんじゃないだろうか。
「ひとりで入ります」
私のそっけない返事に、三枝君の顔色がちょっと変わった。
「もしかして、俺なにか誤解されてる?」
「なにを」
なぜかそれだけ安っぽく見えるガラスの小さな灰皿にタバコを押し付けて、立ったままでいる三枝君を眺めた。
ちょっと怒ったような顔をして、フェイスタオルを畳んで椅子の背にかける。妙にテキパキしているから余計に誤解するのに。
「だってねえ。三枝君、やっぱりとても女慣れしてる感じがするのよ。残念ながら私はそんなに経験豊富じゃないから、あまり慣れた感じにされるとかえって……」
「遊ばれてる感じがする?」
うまく言葉にできないように感じて、だまって頷いてみる。
私が座っている椅子に近づいて来た三枝君が、私の頬に手を添える。その顔は真剣だった。
お風呂場から聞こえていた自動給湯の流水音が止まったのが分かる。
私はなにもできない。
「俺、先にシャワー浴びてしまうから。もし迷うなら芹香さん帰っても構わないよ」
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