スイートなメモリー
私に、また選択肢がいくつか提示される。
このままタクシーを降りずに家に帰るか。
終電まで時間があるから、タクシーを降りたあと電車に乗るか。
きちんと謝って、三枝君と向き合うか。

さあどうする前崎芹香。
若者のまっすぐな視線に射抜かれて、私は困惑した。
正直頼りないと思っていた三枝学人が、大人の男の目で私になにか期待している。
意を決して、タクシーを降りた。
三枝君が薄く笑っている。さあどうする? とその目が私に問いかけている。
「失礼なことを言いました。ごめんなさい」
素直に謝った。
人の自尊心をむやみに傷つけていはいけない。
私だって、期待していたのは確かなんだから。
「良く出来ました。ここで帰るなんて言わないよね?」
三枝君が、笑って私の手を握った。私もその手を振り払わない。
三枝君は私の手をとったまま、ホテル街ではなくて二四六号線に向かって歩いて行く。どこへ行くんだろう。
不思議な人だなと思った。
意外な男らしさを見せられて、私はなぜか高揚している。
良かった。綺麗な下着を選んできて。

二四六号線へたどりつく前に、大きめのホテルがあった。
一見ラブホテルには見えない。
こんなところに大型ホテルがあるとは知らなかった。
三枝君は私の手を引いてホテルへ入る。有人のフロントがあって、地階にはレストランもあるようだ。
こんな立派なところへ連れて来てもらっちゃっていいのかな。
私さっきの食事代も全部出してもらってる。

部屋を選ぶパネルの前で、三枝君が私の迷いに気がついたように笑う。
「気にしないで。プールついてるような部屋もあるけど、そんなに高くない部屋もあるから。最初くらい全部出させてよ」
その言葉に甘えることにして、黙って頷いた。
こんな時に饒舌になれるほど私も慣れてはいない。

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