スイートなメモリー
帰宅途中にメールを送ってから、不安で仕方なかった。
なにが不安なのかはっきりしないのだけれども。
なかなか返事がこないのでやきもきする。
明日会えたら嬉しい。話したい。聞きたいことがたくさんある。
枕元に携帯を置いて、寝る支度をしたあともじっと待つ。
日が変わる頃になってやっと返事がきたけれど、それはとてもそっけない返事で、私はかえって落胆した。
明日、会えたらなんて話せばいいんだろう。
この、はっきりしない不安をどう伝えたらいいんだろう。
私はすっかり三枝君に参っていて、好きでたまらない。
けれど、自分の中でそれを良しとしない感情があるのも確かで、この人を好きになっていいのだろうかと逡巡している。
三枝君は、私に「ペットになってくれない?」と打診した。
私はそれを断らなかった。
だからきっと、三枝君は私の飼い主でいるつもりだろう。
私は三枝君のなに? と問えばおそらく答えは「ペットだよ」というものに違いない。
私はそれでいいのか。
「私は三枝君のなに?」という問いに対しての私が思う正解は「芹香さんは俺の彼女だよ」というものだ。そして私は三枝君に対して「この人は私の彼氏です」という解を持ちたい。
その答えを得る自信とその解を許される自信がない。
私はもう三十歳だ。結婚だって考えないわけじゃない。
けれど、恋人のようなものになった三枝君はまだ二十二歳で私の部下で、私はそれを望んでいいのかどうか非常に迷う。
はたして自分が二十二歳の時に、恋人を結婚相手として考えたことがあっただろうか。なかったように思う。
ただ毎日が楽しければそれで良くて、先のことなどあまり深くは考えていなかったはずだ。自分がそうだったから、三枝君にそれを要求することなどできない。
だから私は迷う。そして私は不安になる。
ベッドの中でタオルケットを抱き寄せて転がりながら、ああでもないこうでもないと考える。答えなんかでやしない。
私が考えていることは、三枝君がどう思っているか。そんなの三枝君本人でなければわかる訳がない。
明日会ったら話してみたらいいんだろうか。
けれど、そんなことを話したら「そこまで考えてはいなかった」と言われて、負担に思われるだけかもしれない。負担にはなりたくない。
だけど自分の時間も無駄にはしたくない。
三枝君のことは好きだけれども、好きだからこそ迷う。
< 75 / 130 >

この作品をシェア

pagetop