渇望の鬼、欺く狐
「……いい物?」



 不思議そうな顔が、更に疑問を映し出す。



「あぁ。買出しには連れて行ってやれないけど。代わりに、お前にいい物見せてやる」



 最後にぽんぽんと幼児の頭を撫でてから、狐は幼児の体を持ち上げた。

 狐の口にした「いい物」に興味が湧いてしまったのか、ようやく幼児は涙を止めて。

 肩車された事で高くなった視界の中、幼児は縋り付くように、狐の髪を掴む手に力を込めていた。

 狐の足が、森林の奥深くへと進んでいく。

 足場が悪い中、幼児を肩車しているにも関らず、その足元が崩れる事はない。



「ほら、着いたぞ」


「ここ……何?」



 肩から幼児を降ろした狐は、疑問を口にする幼児へと笑みを向けながらに答えて見せた。



「俺の寝床だよ」



 森林の奥深く。

 山を少しだけ登った場所にあるこの洞穴は、鬼に自分の寝床を探せと言われたあの日から、狐が寝床にしている場所だった。

 
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