渇望の鬼、欺く狐
 社に辿り着いても、狐がすぐ傍に居る事は気配で気付いていた。

 翌日になり、外の空気を吸う為に社を出れば、扉の前で横になる狐と合わさった目。

 それと同時に狐は重たそうに体を起こして見せた。

 溜息を漏らしながら狐を横切り、足を進ませれば、昨日と同じく狐は私の後を追いかけてきて。

 私が社へと戻れば、また扉の前で体を横にしているようだった。

 そんな事が一週間程、続けられた時だろうか。



『私はお前を飼う気はないよ』



 話しかけてしまった理由は、こちらがその存在を無視し続けても、社の傍を離れず。

 外に出た私の後を追いかけようとする狐に、根負けしてしまったからだと記憶している。

 最初に見た時よりも痩せたように見える体。

 だけどその目は、最初に見た時よりも、微かに生の兆しが現れているように感じられた。

 こちらの言葉に狐が何かを返す事はない。

 ただただ擦り寄って甘えて。

 それはどこか、こちらが狐の存在を無視せずに話しかけた事を、喜んでいるかのようにも見えた気がした。

 こちらに擦り寄る狐の頭を撫でてやれば、嬉しいのか何度も私の手を舐め付ける。

 こんな痩せこけた体でよく生きてられたなと、心のどこかでそんな感心を狐へと抱いた。

 そして気付く。

 狐が横になっていた辺りを見回しても、そこには糞尿の形跡が一切見られない。

 排泄に辿り着く程、食料も水も口には出来ていないのかもしれない。

 狐がここに姿を現し一週間。

 ただの子狐が、一週間も飲まず食わずで生きていられる物だろうか。

 いや、ここに来てから一週間というだけで、その時点で痩せこけていた狐が、実際にいつから食料を口にしていないかは見当もつかないけれど。
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