渇望の鬼、欺く狐
 鬼が逸らした視線の先。

 少年は、自分の額に生えた角に触れながら、未だ呆然としていた。

 その少年の姿を目に映し、鬼の胸中には強い罪悪感が込み上げる。

 そんな鬼を気に留める事もなく、狐は鬼の頬に添えた手に力を込めて、鬼の視線を自分へと戻した。



「ねぇ、藍。教えてよー。どうして旭にしたのー? あの時の状況からだと、夕陽のが合ってたでしょー?」



 狐がこれだけ訊ねても、鬼は答える気がないと言わんばかりに、口を噤んでいる。

 それを理解したのであろう狐は、幾分かつまらなさそうな顔を浮かべた後、鬼へと告げた。



「じゃあ、藍。質問を変えよっか」



 鬼の訝しげな表情すらも、狐の愉悦を煽るには適していたのかもしれない。



「ねぇ、藍。藍はどうして、旭の体が元々強いなんて思ってたの?」


「え……?」


「いつか言ったでしょ? 旭は風邪を引いた事がないから、元々体が強いのかもしれないって」



 言っただろうか、と鬼は考える。

 すでに冷静さを欠いた思考の中、ようやく鬼は数年程前の狐とのやりとりを思い出した。



『旭は、これまで一度も熱を出した事がないだろう? 元々体が強いのかもしれないけど。きっと大きくなっても強い子のままだよ』



 何か、おかしいところでもあるのだろうか。

 そもそも、どうしてこんな質問をされたかもわからない。



 疑問を伴う鬼の思考。

 先程から、狐の言動は、鬼の冷静さを確実に削り取っていく。

 そして狐は、それを餌に楽しさを肥やしているのだろう。

 それがやけに、鬼の癇に障っていた。 
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