渇望の鬼、欺く狐
「あの男にも子供が居てね? だからかなー? 俺の話、凄く真剣に聞いてくれたんだー。まぁ、実際に見た人が居るって言ったのも良かったんだろうけど。でね? 鬼の居る場所は大体わかってるから、何人かで来た方がいいって言ってあげたんだよー」



 悪びれず口にする狐に、鬼は絶句するばかりだった。

 視線を逸らした鬼の肩へ狐が手を伸ばしたけれど、それは鬼により振り払われてしまう事となる。



「何で……、何でそんな事を……」



 振り払われた手を擦りながら、狐は一瞬だけ表情を消し。

 だけど、すぐにまた口角を持ち上げる。



「俺ばっかり答えるのも何だし、藍も教えてー?」



 鬼の視線が、再度持ち上がった事を確認してから、狐は口を開いた。



「昔にも聞いたけど、旭の名前。何で旭なの?」


「何となくだと……言ったハズだよ」


「嘘だ」



 鬼の答えを即答で否定した狐の手が、鬼の頬へと伸ばされる。

 先程のように、鬼が狐の手を振り払う事が出来なかった理由は。

 体が微かに震えだす理由は。



「藍は俺の名前だって、降ってる雪から付けたんだ。あの時は俺の事なんて、何の思い入れもなかったクセに」



 狐に暴かれる事に対しての躊躇いか、それとも。



「でも旭は違う。藍が自分の意思で拾った。少なからず、最初から思い入れがあったハズだ。なのに、何となくで名前を付けるなんて、ありえないんだよ」



 根強く心に残り続けた、過去への恐怖か。 
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